斜陽に名残り雪

「ヒーローで誰が好き?」 「ライトレッド一択だろ。めっちゃカッコいいよな!」  買い物帰りに聞こえた会話に、男は足を止めた。目を輝かせた市民の声に偽りはない。 「捕まったときはガッカリしたけどさ、人質取られてたせいだし、実質無敗だよなー」 「怪人の種仕込まれたときはもうダメだと思ったけど、そっから逆転だろ? アイスソウルとかさ、今まで怪人堕ちしてたヒーローはなんだったんだってカンジ!」  ライトレッドを称賛するあまり、他のヒーローを貶す言葉に思うところはあったが。 「ほんと、ライトレッドって最高のヒーローだよな!」  その言葉に笑みをこぼして、かつてアイスソウルと呼ばれていた男は家路に向かった。   *  *  * 「ただいま」 「おかえり!」  大型犬のように抱きついてきたライトレッドに、男は息を詰まらせた。強引に抱き竦められたせいで、買い物袋が玄関に落ちる。  ライトレッドが玄関の鍵を閉めながら、猛々しく勃起した熱を押し付けてきた。 「レッド、待て。さっき、お前のファンだって市民がいて」 「どうでもいい」  服の上から乳首に指をねじ込まれ、男は白目を剥いた。かつて全身をオナホにされた後遺症で、体から力が抜ける。 「どうせ俺に比べてアイスソウルはとか言ってたんだろ?  勝手だよな。俺を育てたのはアイスソウルなのに」  否定できず、男は無力に喘いだ。玄関に尻餅をつく。  ライトレッドは乱暴にチャックを下ろし、匂い立つような熱を鼻先に突きつけてきた。 「しゃぶれよ」  傲然と命じるライトレッドの目が縋るように張り詰めていて、男は拒めなかった。口を開ける。  突っ込まれた男根の味に、調教された味覚が歓喜してツバが湧き立つ。舌と頬が勝手に動いて、脈打つ強張りに奉仕する。 「あー、キモチイ~~。  なぁ、アイスソウルはさ、俺にヒーローでいてほしいんだよな?」  頷く。ライトレッドの赤髪は、怪人の種の影響で変色している。心も。 「じゃあ、俺を最高に気持ちよくしてくれよ。  じゃないと、クソ市民どもをレイプしちゃうぜ?」  脅しに喉を鳴らして、男はライトレッドの種を飲んだ。粘ついた熱くて濃い汁が食道にへばりつく。  いつか怪人の種が抜けて、元のライトレッドに戻ってくれる。そう信じて。 「お前の育てた最高のチンポ、最高に美味いだろ?」  男は頷いた。心は否定しようとしたが、体は喜んで頷き、従順にライトレッドに股を開いた。   *  *  *  アイスソウルに挿入した途端、ライトレッドは怖気の走る恍惚に包まれ、我に返った。  怪人の種を仕込まれて以来、植え付けられた本能が囁いてくる。イケ。ヒーローを犯せ。貶めろ。  それに耳を塞いで、ライトレッドは腰を振った。アイスソウルの締まりの良い肉を穿つたびに、快感が闇を慰撫し、心が正気を取り戻す。  乱暴に揺すられて喘ぐアイスソウルの口に、自分が吐精した痕を見つけて、ライトレッドの心は悲鳴を上げた。ごめん。一度じゃ足りないんだ。もっと。 「ハァ、ハァ、スッゲ、イイ。さっすが、最高のオナホヒーローだな」  勝手に動く口が、アイスソウルに下卑た賛美を贈る。アイスソウルが、潤んだ目で吐き捨てる。俺はもう、ヒーローじゃない。  そんなこと、言わないでくれ。叫ぶ心を口が裏切る。 「謙遜するなよ。今でも、このシマリなら、怪人どもを悦ばせられるんじゃないか?」  服の下の臍を、脇を、乳首を指でほじって、アイスソウルの自尊心を破壊する。仰け反って快感を訴える姿に、ライトレッドの肉棒がいきり立って、アイスソウルの粘膜をかき混ぜる。 「なぁ、俺のチンポが、一番イイだろ? 怪人どもより、市民より、なぁ?」  アイスソウルが頷く。涙をこぼし、涎と精液のこぼれる口を引き結びながら、懸命に媚びてくる。罪悪感と興奮に、ライトレッドの頭は煮えたぎった。  ごめん。チンポが疼いて、誰かを犯してないと、正気が保てないんだ。穢さないと。貶めないと。違う。こんなこと。お前にしか。違う。 「出す、ぞっ」  呻きながら腰を打ち付け、盛大に種付けする。靴を玄関に擦りつけながら、アイスソウルが顔を真っ赤にして雌の絶頂に昇り詰めるのを、怪人の心は歓び、ヒーローの心は絶望した。  謝罪の言葉を述べる前に、アイスソウルの体が青いゼリー状に縮み、服を残してライトレッドの肉棒に装着された。ライトレッドに植え付けられた怪人の力が、アイスソウルに残るオナホ化の呪いを起動させたのだ。  戻さないと。ヒーローの力を流せばすぐに戻る。そう考えた瞬間、警報が鳴った。 「怪人の襲撃が発生。ヒーローはB-29地区ブロックに出動してください」  行かないと。立ち上がり、強化スーツを装着する。  スーツの下でオナホが吸い付いてくるのに、ライトレッドは股間を撫でて嗤った。 「特等席で、俺の活躍見せてやるよ」  だから、俺のヒーロー。俺をヒーローでいさせてくれ。  玄関を開けたライトレッドは自信に満ちた最高のヒーローで、その悲鳴に気づく者は誰もいなかった。