《夢想》は『恋』がどういうものなのか、よくわからない。
それはただひとりに向けられる熱情だと、本にはある。けど、仲良くなりたい。もっと近づきたい。そう思う相手はひとりじゃない。
いないと寂しい。他の天使と仲良くしてるのを見ると、もっと寂しい。そう思う相手もいっしょじゃない。
くっつきたい。その体臭も、体温も、全部知りたい。そう思う相手だって、ひとりじゃないのに。
ぼんやりと中庭に出たところで、《夢想》は顔を輝かせた。中庭に、《献身》がいる。
霧の中に光が挿したような心地で、《夢想》は《献身》に声をかけようとして、直前で動きを止めた。《先導》がいる。
「おい。髪、乱れてるぞ」
「ぇ、やだ、すみません」
言うほど乱れていなかった《献身》の髪を《先導》が丁寧に整える。まるで、髪を直すのがただの口実だったかのように。
《献身》もそれがわかっているかのように、髪をくすぐる《先導》の手をそのままに、頬を染めて見つめ合っている。
ふたりの世界に、自分はいない。それがわかって、《夢想》は声をかけずに足早に立ち去った。
寂しい。この気持ちを『寂しい』と呼ぶことは知ってる。でも、どうして自分が『寂しい』のかわからない。《献身》のことも《先導》のことも、大好きなのに。
「ぁっ、《怪り》……き……」
「だぁーかぁーらー、踏み込みが浅いんだってば、《勇気》。あんたリーチ長いんだからもっとガッッッて行きなさいよ」
「ちょっとのリーチなんて権能でいくらでも覆されるじゃないですかぁ」
「そのちょっとが勝敗を分けるっつってんの! 体格も権能も自分の力なんだから残らず十全に使えっ」
空き時間でも熱心に後輩を指導している《怪力》を見かけて、邪魔してはいけないとまた道を変える。胸がしくしくと痛んで、息苦しい。
向こうで《博識》と《共感》がしゃべってる。また道を変える。向こうから《献身》と《先導》が並んで歩いてきて、身を隠す。まるで迷路に迷い込んだみたいだ。
《怪力》は友達だ。でも『寂しい』。仲の良い同僚の《博識》だって、最近仲良くなった《共感》と話してるのを見て悲しくなった。
みんなと話してるときは、別に寂しくないのに。
「……そっか、僕、みんなの中に僕がいないのが嫌なんだ」
口に出して、幼稚な自分に苦笑する。腕の中に、垂れた輪郭の戯画化された兎、と形容するのも躊躇われる不可思議な生き物を召喚する。
《夢想》の権能は想像したものを実体化させる。実際にはもっと小難しい理屈があるそうだが、それは《夢想》の興味から外れていた。
はっきりしていることは、《夢想》が具現したものは《夢想》の想像が細やかなほどリアリティを伴い、《夢想》の五感から外に出ると霧散してしまう。現状では視界から瞬き以上の時間外れると消えてしまうのが常だった。
その中では、この兎モドキは作りなれていて安定している想像だった。抱きしめると温かく、ふわふわの毛皮はお日様の匂いがして、柔らかい生き物の感触がする。
寂しいときにギュッとすると、ホッとする。目を閉じても、匂いも手触りも細やかなこの生き物は消えない。壁にもたれかかって頬ずりすると、心が晴れていくようだ。
「《夢想》、どうした?」
「っっっうわわわわ、《先導》!?」
飛び上がって声が裏返る。目を開ければ、目の前に《先導》がいた。心臓が早鐘を打つ。
「どうし、って、休憩時間、だったから。《先導》こそっ、《献身》さんは?」
「休憩時間が終わるから別れたが……なんだ、見てたのか?」
「……邪魔しちゃ悪いと思って」
俯くと、《先導》の手が《夢想》の頭に乗せられた。さっき、《献身》の髪を梳いていたのとは違う手つきで、《夢想》の髪をくしゃくしゃにする。
顔を上げる。《先導》の柔らかい笑顔に視線がぶつかる。
《献身》と付き合い出してから、《先導》の表情は優しくなった。仏頂面の眉が顰められる頻度が減り、スキンシップを躊躇わなくなったと思う。
《先導》の足元に現れた兎モドキが、ひょいっとその頭に跳び乗る。《先導》の長身を思えば避けるのは簡単だったろうが、《先導》は逆らわず、視線を頭上に向けるだけだった。
頭に可愛らしい生き物を乗せた厳つい《先導》の姿は想像以上にユーモラスで、結局こらえきれずに笑ってしまう。
好きだ。《先導》も、《献身》も。《怪力》も、みんなのことも。それを確認できて、《夢想》はホッとした。
この時点では、ただそれだけだった。
答えはあっけなく《博識》からもたらされた。
「ああ、そりゃ『ハーレム』だろ」
「はぁれむ?」
聞き慣れない単語を鸚鵡返しして、《夢想》は小首を傾げた。
休憩時間で本を語らい合うのが《夢想》と《博識》の常だが、ふと聞いてみたのだ。複数名と恋仲になることはあるのかと。
「まぁ、ただでさえ『恋』ってやつは堕天の芽になりやすいからな。同時交際は爛れた関係になりやすいってんで、その手の本はレベル2相当の禁書に指定されてるのさ」
「れべる2……」
その程度なら《夢想》にも閲覧許可が降りる。自分の気持ちを整理するヒントがあるかもしれないと、《夢想》は弾む足取りで禁書庫へ向かった。
* * *
(うそでしょ……こんな……)
果たして、自室に鍵をかけて広げてみた禁書は、ほとんどが淫らな艶本だった。
《夢想》がよく読む冒険小説や純愛小説とは違う、際どいなどというものではない赤裸々な官能小説。逞しい男があらゆる美女を抱き歩き、ときには女たちをいっぺんに寝台に連れ込んで、想像もしなかった秘技を披露する。
これは、絶対、自分の気持ちとは、ちがう。確信したが、ページをめくる手は止められなかった。視線が紙面に釘付けになって、情報が思考に流れ込んでくる。
ツバを飲み、下肢に手を伸ばす。ズボンの下はもうすっかり張り詰めていた。
明かりを消した自室で、ズボンをくつろげ床に膝をつく。手袋を口で咥えて外すと、もう我慢できなかった。
片手で竿を握る。水音が粘って、淡い色合いの先端が潤む。
鋭い快感に息が乱れるが、頭をよぎる情報があった。
(おっきいほうが、相手を、気持ちよくさせられる……)
それは創作物の誇張表現だと《夢想》も察していたが、憧れには抗えなかった。
自分の性器を握り、想像する。両手でも指が回りきらないほど太く、長く、立派な男根が、手の下で脈打ち始める。
《夢想》の権能は、想像を具現させる召喚の他に、変身という使い方がある。想像を被せて、思い描いた姿に変身させる。《夢想》の五感から外れたり集中が途切れると消えてしまうのは同じだが、変身させた体はきちんと自分の体として知覚できる。
腕のように太くなった己の男根を、《夢想》は夢中で扱いた。皮が動くたびにグチュグチュ音がして、しょっぱい肉の臭いが鼻につく。
気持ちいいかはわからない。だけど、自分の股間から大きなモノが生えているのが、《夢想》を興奮させた。
(みんなも、喜んでくれるかな)
暴走した思考が、慕う者たちの痴態を想像させた。
慈しむように微笑む《献身》が、唇を寄せてくる。仕方ないなと甘やかす《先導》が舌を伸ばす。ふたりの吐息が、《夢想》の性器を包んで。
「ゔっぁっあ゛っ、あ~~~~~」
想い人の湿った唇を想像した途端、《夢想》は果てた。間の抜けた裏声を発しながら、ブルブルと震える肉棒からドロドロと白濁が漏れる。咥えていた手袋が落ちて、蓋をするように亀頭を包んだ。
射精は長く、絶え間なく続いた。快感に意識が集中してれ、変身が持続する。握り拳ほども膨らんだ睾丸がせっせと精液を送り出し、吐き出された子種が何度も手袋を濡らして滴り落ちる。
放尿ほども時間をかけて、ようやく射精は終わった。尻もちをついて、《夢想》は呼吸を整えながら余韻に耽った。
幼さの残る面差しが、雄の快感に火照って赤らんでいる。やや落ち着いた肉棒から、手袋がずるりと落ちた。
今のは、いけないことだ。実在する相手の姿を、無断でこういうことに借りるなんて。
じんわりとした後悔を覚えながら禁書を見ると、広げた紙面に手袋が落ちていた。ページがべったりと白濁で湿っている。
「あ゛っ、まずっ!!」
慌てて手袋を拾って、ようやく変身が解けた。目を瞠るほどの巨根がいつもの自分のサイズに戻り、水溜りになっていた白濁が消え失せる。
手袋は湿って、紙面に汁を付けてしまっていたが、この程度なら自力で洗浄して修繕できる。ホッと胸を撫で下ろした《夢想》の股間が、まだ鎌首をもたげた。
今のは、いけないことだ。相手の姿を無断で借りて、自慰に使って、精液で書籍を汚すなんて。だけど。
「いけないことって……気持ちいいんだ」
想像は止められない。薄闇を見上げた《夢想》は、そこに自分を見下ろす、恋い慕う者たちの姿を思い描いた。
自室のソファで仰向けに寝っ転がり、《先導》は訓練兵たちの成績を確認していた。
《怪力》は問題ない。権能を十全に使いこなし、それに甘えず訓練に励んでいる。《先導》を超える日も遠くないだろう。
猪突猛進なところがあるが、後輩の《勇気》に先輩風を吹かせているのが双方に良い影響を与えているようだ。《怪力》は《勇気》に助言することで視野が広がり、《勇気》は《怪力》の指揮でやるべきことに集中して取り組めている。
《勇気》は気性の弱さが枷になっているが、この足踏みは乗り越えれば大きな財産になると期待している。他の戦士も今のところ大きな問題は生じていない。
自分の受け持ちが順調なぶん、他のことが気になった。ファイルを閉じる。と、伸びてきた手がファイルをさらっていった。
「はい、そこまで。
ダメですよ、お休みの日に仕事したら」
「《献身》……」
覗き込んできた顔が微笑んで、彼女の柔らかな胸が肘に当たる。わざとだろうな、と察して、《先導》は逆らわず彼女を抱き寄せた。
《献身》とは元々顔見知りではあったが、親しくなったのは共通の友人である《夢想》がきっかけだった。
好奇心旺盛で厄介ごとに首を突っ込みやすい《夢想》を、後ろで並んで見守ったりフォローしたりするうちに、いつしかふたりきりで会うようになり、翼を共にする仲になった。
唇を重ねる。吐息が交わって、離れ難く唇を啄む。互いの呼吸を潤しながら、手を背中に伸ばし、衣擦れの音を奏でる。
休日なので、翼は展開していない。熱心に肌を撫でさすり、その柔らかさに何度も驚く。戦士ではない《献身》の体は細く、軽い。滑らかな皮膚の弾力に《先導》は夢中で溺れた。
窮屈にズボンを持ち上げていた性器が《献身》の指に引っ張り出される。息が詰まって、《献身》を撫でていた手が止まる。
《献身》は含み笑いをして《先導》の裏筋をくすぐった。微細な快感が鋭く腰を刺す。尿道からドロリと込み上げた先走りを塗り広げながら、《献身》が玉を転がすように《先導》の亀頭を弄ぶ。
唇より、乳房より、女陰よりも、彼女の手でいたぶられるのが《先導》は一番好きだった。さすがに言えはしないが、《献身》はきっと察しているだろう。
全体が滑り気を帯びた肉棒を指の輪で扱かれ、陰嚢を転がしながら会陰を指圧される。はしたなく上下の口から涎を垂らし、《先導》は《献身》の細腰に縋りついた。
戦士たちから畏怖される強面教官の初心な姿を独り占めして、《献身》は濡れた下着を脱いでその逞しい体の上に跨った。
「《先導》さん、動かないでくださいね」
己の花弁と《先導》の穂先を触れ合わせる。くちゅりとした感触を頼りに腰を落とす。
ゆっくりと、濡れた襞に、嬲られて敏感になった亀頭が呑み込まれていく。
「ッ、《献身》」
「ダメです。そのまま、じっとしてて」
重ねてお願いして、《献身》は指を《先導》の肌に這わせた。緊張して硬く盛り上がった筋肉を捏ねる気持ちで、剥き出しになった乳首を軽く抓る。
喉を仰け反らせた《先導》が、胎の中で大きく弾むの確認しながら、今度は強く乳輪を弾く。二度、三度と重ねるたびに、《献身》の中で《先導》が強く脈打つ。
互いの肌が汗ばみ、温もり、より深く融け合う。
「《献身》、すまん、もうっ……」
「いいんですか? また、泣いちゃいますよ?」
《先導》は眉を顰め泣き出しそうな顔をしたが、衝動を堪えることはできなかった。弛緩して柔らかくなった胸筋を《献身》に強く揉まれ、反射的に背中と腰が大きく跳ねる。
痺れるような快感が爪先から脳天へと駆け巡り、溢れた熱が《先導》の中から《献身》へ注ぎ込まれる。尻の穴を締め、最後の一滴まで吐き出そうと《先導》は歯を食いしばった。
自分が射精するためだけの生き物になったような恍惚から、数秒で《先導》は立ち直り、
「はい、もういっかい❤︎」
「ッッッッッ❤︎❤︎❤︎」
《献身》の腰のうねりに、再び快楽の坩堝に叩き落とされた。
射精したばかりの肉棒が、グチュグチュと《献身》の襞に啄まれる。注がれた汁を一滴たりともこぼさない肉の穴が水気を帯びて、深く、深く、《先導》を《献身》の中へ引き摺り込む。
夢中で《献身》を抱き寄せて、《先導》は己の腕を噛んだ。そうしないと彼女の肩を噛んでしまいそうだった。密着した《献身》の手が《先導》の乳首を潰す。強い刺激に再び肉棒が精を放つのを感じながら、《献身》の舌に耳の穴をほじくられる。
耳朶をねぶる唾液の音が、絡み合う下半身の音と区別がつかない。自分が漏らす恥知らずな声を確かめるすべは、《先導》になかった。
彼女と肌を重ねると、いつもこうなる。わかっていても止められない。彼女に可愛がられる快感から逃れられない。
不埒にソファを潜った《献身》の指が《先導》の尻穴をつついた。みっともなく涙ぐんだ《先導》を覗き込んで、《献身》が囁く。
「《先導》さん、可愛い」
せめてもの抵抗に、《先導》は《献身》の唇を奪い、彼女を腕の中に閉じ込めた。
* * *
その様子を、《夢想》はじっと、部屋の隅で息を殺して見ていた。《先導》がどこをどんなふうに触られると悦ぶのか、《献身》はどこをどんなふうにするのが好きなのか、懸命に情報収集する。
ふたりに気づかれないように部屋に忍び込むのは簡単だった。誰にも見つからない自分を想像すればいい。最近の、いっしょにいるのに除け者にされているような疎外感を思い出せば、それは容易く実現できた。
ちんちんが、ムズムズする。今すぐ扱きたい。ちがう。ふたりに混ざりたい。自分も混ぜてほしい。だめだ。
それが叶わぬ願いだと、《夢想》もさすがにわかっていた。でも叶えてほしい。そう夢想することを止められない。だから。
鼻息荒く、顔を真っ赤にして、《夢想》は睦み合うふたりを目に焼きつけた。
その日は何かがおかしかったが、天使の多くは違和感すら覚えなかった。
図書館を歩いていた《先導》は、不意に自分が何故ここにいるのか訝しんだ。窓から漏れる光は白く冷たく、まばゆくも薄暗い夜明けの時間だと告げている。
「《先導》!」
弾む声で駆けてくる《夢想》の姿に、《先導》は違和感を強めた。図書館で《夢想》が大きな声を自ら出すことはない。
意識を戦闘モードに切り替え、周囲を警戒する。重苦しいまでの静寂が決定打だった。いくら早朝とはいえ、ここまで天使の気配がないのはおかしい。
「《夢想》、何があった?」
「なに、って、《先導》がいたから……えっと、仕事中だった?」
戸惑う《夢想》の様子はいつも通りすぎた。近寄らないよう牽制しつつ、記憶を掘り返す。
昨日。昨日は、《献身》の部屋に行った。冬に。番いになろうと。それから。ふたりでデートをして。《夢想》に偶然会い。報告を。
『おめでとう!』
その祝福といっしょに、意識が途絶えて。
「……《夢想》。俺に、何をした」
「《先導》、覚えてないの? 昨日、僕と番いになったの」
「は?」
戦闘中にあるまじき声が漏れる。否定しようとしたが、その記憶があふれて体が硬直した。
目の前の《夢想》の唇、肌の感触、《先導》を締めつける後腔の味すら鮮やかに思い出されて、あらぬ場所に血が昇りかける。
「ばっ……かな! 俺はっ、《献身》と」
「あ、そうか。情報の整頓と描写が甘かったね」
記憶が、遠ざかる。《献身》と愛し合った記憶が薄れて、《夢想》と睦み合った記憶が近くなる。
窓から声が聞こえる。さっきまではなかったはずの天使たちの気配が、早朝に相応しく疎らに生える。やめろ。《先導》は怒鳴った。薄れていく違和感を引き止めるように、強く。
「そんなに知りたいの? 僕が何してるか」
睨みつけるように頷く。信頼していた友が、邪気のない声で笑う。
「じゃあ、《先導》だけに見せてあげる」
背中に抱きつかれ、《先導》は瞠目した。目の前にいたはずの《夢想》が後ろにいる。目の前にもいる。ここじゃないどこかにも。景色が歪み、意識が眩んで、歪んで、渦巻く。
湧き上がり流れ込んでくる無数の記憶に、《先導》の意識は混濁していった。
* * *
「ん、ぅっ、ねむい……」
朝陽に目蓋を刺され、《怪力》は重い眠気を振り払うように頭を起こした。戦士にあるまじき寝起きの悪さだぞと訓練された意識が叱るが、体の芯にしがみつくような気怠さに逆らうので精一杯だ。
「起きたか。おはよう」
「ッ《先導》!!?」
自分の部屋だと思っていた空間に教官を見つけて飛び起きる。すぐさま身支度しようとして、ここがやはり自分の部屋だとわかって再び動きが止まった。
《怪力》を叱りもせず、《先導》は我が物顔で水を飲んでいる。鍛えた上半身を惜しげもなく晒して下着だけを身につけた格好にしばし見惚れて、《怪力》は自分が全裸なのに気づいた。
「~~~~~~っっっっ」
そこで、ようやく昨夜の記憶が蘇って、遠慮なくベッドにくるまる。自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。
何度も何度も、《先導》が「明日が辛くなるぞ」と窘めたのに自分から求めたことまで思い出し、《怪力》は言葉にならない絶叫を枕に閉じ込めた。
「だから言っただろう。今日は訓練は休め」
「いやっ、それは……」
起き抜けに叫んだせいで咳き込むと、見越していた《先導》に水を差し出された。喉を潤している間に「教官命令だ」と釘を刺され、反論を封じられる。
というか、体の不調を抜きにしても、《先導》を前にするだけで訓練にならない予感が、自分でもした。喉がしゃがれている別の理由も思い出して、恥ずかしさに突っ伏す。
「じゃあ、俺は出るが、今日はゆっくり休め。訓練が終わったらまた来る」
「ぁっ……」
身支度を整えて背を向けた《先導》を反射的に引き止める。言葉を探して、視線が宙を彷徨う。
《先導》がじっとこちらの言葉を待っているのを見つけて、《怪力》はだいぶ熱の引いていた頬が再び熱くなるのを感じた。
「ぃっ、いってらっしゃい」
「……いってきます」
自分でも驚くほど甘ったるい声に、見たこともない笑顔を返されて、《怪力》は反射的に俯いてしまった。《先導》が出ていく。ようやく、違和感を覚える。
(あれ? あたし、なんで《先導》とこんなことになったんだっけ?)
気怠さに身を任せてシーツを被り、記憶を漁っているうちに、《怪力》は眠ってしまった。
目覚めたときには《先導》が帰ってきていて、あふれる幸福に、些細な違和感は押し流されていった。
* * *
あられもない声を上げる自分を恥じる余裕はなく、《共感》は脚を《先導》に絡ませた。衣服はすべて脱ぎ捨てて、訓練を辞めた身体も、感じすぎて萎えた陰茎も、すべてが《先導》の目に触れている。
強く突き上げられて、また声が漏れた。気持ちいい。《先導》がそう感じていることが権能で伝わって、喜びが込み上げる。
涙も鼻水も垂れ流す顔を隠そうとした腕が掴まれる。覗き込んできた《先導》の汗ばんだ顔に、《共感》は見惚れた。
恥ずかしい。でも、もっと見たいと思われている。役立たずだと思っていた権能が、《先導》に奉仕する宝になる。
「は、ぁっ、《先導》、《先導》っ……」
譫言のように名前を呼ぶ。《先導》が腰の動きで応える。体重をかけて深く繋がり、滴る汗が皮膚に跳ねる。押し潰された膀胱が痙攣して思考を弾けさせた。
昔は、逆だった。初心で無垢な《先導》にいけないことを教えるのは、兄貴分の《共感》だった。
今は。繋がったままうつ伏せにされ、《共感》は甲高く鳴いた。尻の中で《先導》がこすれて、脳髄が掻き回されるような快感が体の奥深くに突き刺さる。
こんな動きは教えていない。どこで覚えたのかと嫉妬に駆られれるが、丹念な律動がすぐに悋気を追い払った。
浅いところをリズミカルに抜き差しされて、切なくなった奥をゆっくりと突かれる。ブルブルと震えた身体が、《先導》に絡みついて搾り取ろうとする。
首に口づけを落とされて、それだけで《共感》は弾けた。射精はとっくに意味を成さず、絶頂は浅いか深いかの違いで常に《共感》を茹だらせる。
いきなり引き抜かれ、《共感》は鋭い快感に仰け反った。文句を言おうと振り返った口を啄まれ、すぐに舌を絡めた深い口づけが始まる。
そのまま、再び深く挿入される。《先導》の体が背中に密着し、汗ばむ肌が互いに吸い付く。
《先導》の想いが権能で伝わってきて、《共感》は涙ぐんだ。
「ぉまえ、ちったぁ、なんか、言え、よっ」
せめてもの憎まれ口に「愛してる」なんて言われて、《共感》はそれ以上何も言えなかった。
注ぎ込まれる情愛と快楽に溺れて、《共感》がこの状況に違和感を覚えることは、ついぞなかった。
「まっずいな、こりゃ」
歪んでいく図書館の景色に、《博識》はボヤいた。水面の虚像が波で掻き消されるように、世界が崩れていく。
間一髪、揺らめく廊下を早足で渡り終えたが、悪あがきにもなっていないことは自覚していた。遠からず自分もあの歪みに呑まれる。打つ手はない。諦念は《博識》を冷静にさせた。
数少ない友のことだけが気がかりだったが、この異変の原因は恐らくその友だった。現存する天使でここまで大規模な現象を起こせる権能は《夢想》しかいない。裁判権限を持つ天使に通報はしたが、どうやら遅かったらしい。
そう、遅すぎた。《夢想》に堕天の兆候があるのは気づいていたのに。確信が持てるまではと通報を躊躇って、このザマだ。
自分が正しいと思う行いをするのに、迷いなどなかった。なのに、《夢想》といると、その正しさがブレる。正しい自分でいられない。それが嫌ではなく、楽しかった。
だから。
「《博識》、どうしたの?」
《夢想》に声をかけられ、《博識》は目を瞬かせた。夢から醒めた心地で周囲を見渡す。
図書館の、昼時。静寂を保ちながら利用者の気配で賑わう書架に、今が勤務中だと思い出す。
「悪い。うたた寝してたみたいだ」
「ぇっ、だいじょうぶ? 体調悪いなら休んだほうが……」
「いいよ、平気だ」
雑すぎだと苦笑する。俺が勤務中に立ったまま寝るなんてあり得ない。心配そうな《夢想》を笑い飛ばして、《博識》は業務を始めた。
これが夢だと《博識》は気づいていたが、騙されてやるくらいには、《夢想》に絆されていた。
* * *
「こっ、《高潔》さん、ダメです、《先導》教官とも《怪力》先輩とも連絡とれませぇんっ」
「そうか」
《勇気》の報告に、《高潔》は窓の外を確認した。草木が風にそよぐ中庭の代わりに、墨を垂らしたような暗黒が渦巻いている。
《博識》から《夢想》堕天の恐れありとの報を受け取ってすぐ、砦は闇に蝕まれた。天使たちは次々に揺らめく景色に呑まれて姿を消し、残ったのは《高潔》とたまたま合流できた《勇気》のみ。完全に孤立して、自分たち以外に無事な天使がいるかもわからない。
「とにかく、《夢想》を探せ。奴が原因なのは間違いない」
「わっ、わかりましっっっ!?」
「あれ? 《勇気》に、《高潔》さん?」
呼ばれたように、《夢想》が揺らめく廊下から姿を現した。
驚愕して跳び上がりながらも、《勇気》は的確に行動した。訓練された体が考えるより先に捕獲網を投擲する。
広がった網が《夢想》を包み――触れることなくすり抜けて床に落ちた。
「なっ、なんでぇっ!?」
(権能が、単なる幻ではなく、現実を侵食する強度に深化している)
《夢想》が堕天していなければ、この鳥籠から天使たちが飛び立つ鍵になっていたかもしれない権能……いや、堕天したからこそ、ここまで強まったのか。
「あっ、そっか。《高潔》さんには僕の権能の効きが悪いのか。それに引き摺られて《勇気》も夢を見てないんだな」
「……何が目的だ、《夢想》」
完璧な自制を可能とする《高潔》の権能は、精神干渉に惑わされない。だが、現実改変の域に至り『無敵の自分』に変身している《夢想》に、単独で立ち向かうのは得策ではない。
《高潔》が背中に回した手で指示したのに気づき、《勇気》がじりじりと動いて配置につく。それが見えていないわけではないだろうに、《夢想》は呑気に《高潔》の問いに答えた。
「えーっと、僕、わかったんだ。
僕、《献身》さんのことも、《先導》のことも好きなんだなって」
番いになると報告に来たふたりを思い出し、《高潔》の目が細まった。それに気づかず、《夢想》はポツポツと説明を続ける。
「だから、ふたりに混ぜてほしいなって思ったんだけど、それは難しいでしょ? だから」
「だから、《献身》とも《先導》とも恋仲になっている世界を夢想したのか」
《高潔》の弾劾に、《夢想》は首を振った。
「それだと、みんな邪魔するでしょ? だから、みんな幸せにすることにしたんだ」
悪びれない《夢想》の宣言に、《高潔》は無言で翼を広げた。
冷ややかに、無情に、辛辣に、《夢想》に告げる。
「失恋にも向き合えない惨めな男に、他者を幸福にすることはできない」
《高潔》の言葉に《夢想》が顔を強張らせる。合図に合わせて《勇気》が煙玉を放った。
刺激臭のする濃い煙が広がり、五感が遮られる。全能感に水を差され変身が解けた《夢想》めがけ、記憶した距離と方角を頼りに《勇気》は突進した。
《夢想》の権能が如何に強力になろうと、認識できない攻撃には対応できない。展開した槍を両手握り、全力を籠めて突き出す。
(《夢想》さん、ごめんなさいっ!!)
煙幕が晴れる。
気絶した《勇気》を平然と見下ろす《夢想》の姿に、《高潔》は瞠目した。
「びっくりしたぁ。《勇気》、だいじょうぶ?」
(煙幕を見透かす体に変身した? いや、仮にそうだとしてもそれで見えるのは想像した視界に過ぎない。《勇気》の動きを完璧に捉えるには……)
図書館を、中庭を、砦全体を呑み込む歪みが視界に入る。
《夢想》の思い出を起点に権能を及ぼしているのだと解釈していた。ただ通り抜けるだけの廊下や《夢想》があまり足を踏み入れたことのない訓練室は歪みが少なかったことを考えれば、そう的外れでもないはずだ。
だが、それだけではなかったとしたら。
「砦の管理システムを掌握したのか」
「全支配権を持ってる自分を想像したら、簡単だったよ」
事もなげに笑う《夢想》に《高潔》は敗北を悟った。砦の内部情報、天使たちの位置を常時モニタリングしているシステムを掌握されている以上、今の砦は《夢想》の脳内に等しい。
なんとか砦の外に行くしかない。わずかな可能性にかけて《高潔》は走った。《勇気》を救出する余裕はない。
《夢想》の視線を背中に、扉を開ける。歪みに足を取られないよう意識をしっかり保って。
「《高潔》? どうしたの?」
部屋にいた《献身》に問われて、《高潔》の思考が一瞬止まった。
後ろをふり返る。何の変哲もない扉が閉まっている。自分を顧みる。肩で息をして、汗をかいている。《献身》が訝しむのも当然だ。
何故、自分が慌てていたのか。思い出せない。何か、何かをしないといけなかった。それを掴み取ろうとして、頭からすり抜ける。自分しかそれができる天使はいない。そのはずなのに。
何故、自分が泣き出しそうな気持ちなのかわからないまま、《高潔》はポツリと呟いた。
「お姉ちゃん……」
遠い昔、幼い頃の呼び方で呼ばれ、《献身》が駆け寄ってくる。
どうして助けてほしいと思ったのか思い出せないまま、《高潔》はその腕に甘えることしかできなかった。
* * *
梢の下で風を浴びながら、《献身》は夕陽を見ていた。
誰も来ない砦の外れであるここは、《献身》のお気に入りの穴場だった。自分が知らないだけで、他にもここを憩いの場にしている天使はいるのだろうけれど。
「《献身》さん!」
駆け寄ってくる《夢想》に笑顔を返す。差し出された花に幸福を覚えて、《献身》は彼と手を繋いだ。
《夢想》に貸してもらった物語のような光景だった。陽光に包まれた輝かしい景色。花の香りを乗せた爽やかな風。愛しい相手とふたり。すべてが喜びで彩られ、悲しみはどこにもない。
(なのにどうして、終わりの景色のような気がしてしまうんだろう)
紛れもなく幸せなのに。ここには自分と《夢想》しかいない。もっと、これを分かち合いたい相手がいた気がするのに。
「そろそろ帰りましょうか。《先導》が待ってるし」
「……ええ、そうね」
見透かしたように言われて、《献身》はホッとした。そうだ、ここには《先導》がいない。だから寂しいのだ。そう納得する一方で、意識の片隅が違和感を訴える。
この子は、こんな子だったかしら。もっと、余裕がなくて、気が利かなくて、だから一生懸命に、他者のことを思い遣ろうとしていた、そんな男の子だった気がするのに。
「けっ、《献身》さん、どうかしたんですか!?」
「ごめんなさい。わからないの」
わけがわからないまま寂しさに押し潰されそうで、《献身》は《夢想》に縋り付いた。
ここには自分しかいない。その確信が、《夢想》の温もりに包まれても、消えてはくれなかった。
「よし、できたーっ!」
暗くなった図書館で執筆を終えて、《夢想》は伸びをした。読むばかりで書くのはしたことがなかったが、これはこれで楽しい経験だった。
《先導》と《献身》が恋仲になり、ふたりの間に入り込めないと悟ったとき、《夢想》は思ったのだ。ふたりの邪魔をしたくはないが、混ぜてもらえないのは寂しい。
なら、間に混ぜてくれるふたりを夢想すればいい。そう気づいたら、想像は広がった。
《先導》と恋仲の自分、《献身》と恋仲の自分、《先導》と《献身》を祝福している自分、《先導》とも《献身》とも恋仲の自分、他にもたくさん。
《怪力》と恋仲の自分、《怪力》と恋仲の《先導》、《献身》……自分なら、天使たちをみんな幸せにできる。
砦の管理システムを掌握すれば、みんなのデータは容易に手に入った。そこから各自の幸せを演算する。演算結果が《夢想》の権能でもう一つの現実となり、無数の異なる現在が砦に折り重なる。
そうして歪みきった空間で、《夢想》は首を傾げた。はて、自分は誰が好きだったんだっけ。
どんな生き方をして、どうしてこの選択をしたのか。無数の『もしも』に押し流されて、元の自分が思い出せない。
まぁいっか。《夢想》だった天使は執筆を再開した。みんなの幸せは一通り書き終えたが、まだまだ幸せを増やしたい。
輝く瞳に過去は映っておらず、幾千万の未来が無尽蔵に広がっていた。
* * *
「んっ、《先導》、ここ?」
「ッあ、あぁ……っ」
キュッと締まる《先導》の動きに射精を堪え、《夢想》は動きを止めた。弾む呼吸を整え、汗を拭い、脚を開いた《先導》の裸を見下ろす。
大きくて逞しい《先導》が自分の下で喘いでいるのは、《夢想》をたまらない気持ちにさせた。肉厚の尻を撫でて、ゆっくりと腰を引く。心地よさに《先導》の筋肉が痙攣する。絶景と言って良かった。
「ふふ、《夢想》くん、《先導》さんのナカは気持ちいい?」
「けっ、《献身》さん!? はい、イっ!!」
後ろから《献身》に乳房を押し当てられ《夢想》は暴発した。角度を上げて《先導》から飛び出た性器がビュッビュッと噴射する。白濁が《先導》の体を彩るのに、《夢想》はしばし見惚れた。
赤らんだ肌にブヨブヨの精液が揺れるのは、《先導》が逞しく雄々しいからこそ卑猥だった。普段は大きく表情を崩さない《先導》が、目を潤ませて切なげに《夢想》を見上げている。
「ちょっと、終わったんなら次あたしでしょ」
「かっ、《怪力》。うわっ」
余韻に浸る間もなく《怪力》に押し倒され、《夢想》は成すすべなく仰向けになった。射精したばかりの肉棒が、狭い膣穴に搾り取られる。
《先導》の肉厚の体で包み込むような刺激に比べ、《怪力》は狭い穴でキツく搾り上げるような動きだった。体の上で荒々しく跳ねる《怪力》が、舌なめずりして獣じみた笑みを浮かべる。
さっきまでの《先導》とは逆の立場であることを自覚して、《夢想》は早々に自制を手放した。込み上げた精液が一滴残らず《怪力》に吸い尽くされる。
「もうっ、あたしまだなのに、早すぎ」
「お前は性急すぎるんだ」
「ふふ、そうですね。見てて」
《怪力》と交代した《献身》が、ゆったりと《夢想》の上に腰を下ろした。甘く食まれ、じっくりと吸われる。みるみるうちに硬さを取り戻した《夢想》の男根が、《献身》の中に誘われる。
刺激は浅く、耐えられるからこそ辛かった。めちゃくちゃに腰を突き上げて昇り詰めたいのに、《夢想》の手首を掴む《献身》がそれを許してくれない。
足の指を動かして快楽に耐えるうちに、それすらも刺激に変わっていく。体が鋭敏になり、神経が研ぎ澄まされていく。触れてもいない乳首が空気に擦れてジンジン痛む。
《怪力》と《先導》の視線が皮膚を撫でるのに恥ずかしさを覚えた途端、《献身》が肉襞を波立たせた。
「ぁっ《献身》さんっだめっ。ぁっだめっだめ、めっなのに、ぃっぃっぁっん──!!」
潤んだ粘膜にぴったりと吸いつかれ、煮こぼれるように射精する。体が、自ら、《献身》とひとつになろうとする。
頭の芯から尻の奥、皮膚の下の血流から流れる汗の一粒一粒までもが、全部《献身》の中へ流れ込んでいくような……
「ごちそうさま、《夢想》くん」
「はぁっ、ぁ、も、もう、出な……ぃ……」
「そうか。じゃあ、ここからが本番だな」
「あたしまだなんだから。まだまだ付き合ってもらうわよ」
息も絶え絶えな《夢想》に、《先導》と《怪力》がのしかかる。
すぐに睨み合いになり、もみくちゃになっている隙に《献身》が《夢想》の唇を奪う。発奮した《先導》と《怪力》が協力して《夢想》の下肢を貪り始めて……
「《夢想》? どうした?」
「っふぇっ?」
* * *
唐突な《博識》の声に、《夢想》は夢から醒めた。訝しげにこっちを見ている《博識》の表情に、自分が座ったままうたた寝をしていたと自覚する。
「休憩、もう終わるけど……」
「ぁっうん、そだね! だいじょうぶ!!」
慌てて頷くが、立ち上がることはまだできそうになかった。ズボンの生地が窮屈なのを自覚して椅子を引き前屈みになる。
直前まで見ていた夢を思い出しそうになり、《夢想》は赤面して首を振った。
どうしてあんな夢を見ちゃったんだろう。そりゃ、《先導》も《怪力》も友達だし、《献身》さんのことは好きだけど、だからってみんないっぺんに、だなんて、いくらなんでもふしだらすぎる。
熱が引くのを時間は待ってくれず、《夢想》は仕方なく手にした本を前に立ち上がった。業務に集中すればそのうち萎える、と、いいなぁ。
我が事ながら自信がなく、情けなく思いながら小走りに追いかけると、ふり返った《博識》がニヤリと笑った。
「イイ夢見れたか?」
「みっ、見てない!!」
上擦った声をケタケタと笑われて頬を膨らませる。窓から見える空が青い。
ふと気になって、《夢想》は手にした本を開いてみた。ページは白紙で、何も書かれていない。
どうして、こんな本を持っているのか。
(ええっと、昨日はたしか、《先導》と《怪力》と《献身》さんと……ってちがうちがう! それはさっきの夢!!)
白昼夢を追い払い、《夢想》は新しい本を探して図書館に戻っていった。
閉じた本の内側で、白紙のページがひとりでに文章を紡いでいたが、その続きはまだ誰も知らなかった。