どうして、気づかなかったんだろう。知っていた、はずなのに。
この世界に神様はいない。
私達は、清らかな天の御使いじゃない。
そんなこと、知っていたはずなのに。
どうして今更になって、私。
《献身》と呼ばれていた堕天使は、束ねることをやめた髪を撫でた。
楽園の外は寒く、独りの肌は寂しく、そのことが無性に腹立たしく、今の自分には似つかわしかった。
* * *
「僕、自分が情けなくて」
鍵のかかった相談室で、《献身》はしょぼくれた《夢想》の相談を微笑ましく聞いていた。
もちろん軽々しく扱うつもりはないが、戦闘の心的外傷を診断することも多い《献身》にとって、《夢想》の相談はひどく日常的で、言ってしまえば、自分のほうが癒やされる心地がした。
この子といると、そんな気分にさせられることが多い。元気が湧いてきて、《献身》はその活力を《夢想》に返したいと口を開いた。
「大丈夫ですよ。《先導》さんは怒ったりしてません。《夢想》くんと仲直りしたいと思っているはずですよ」
敢えて強く言い切ると、世界の終わりのような顔をしていた《夢想》は縋るように顔を上げた。
「……そう、思いますか?」
自分がここまで言って《夢想》が元気を出さないのは珍しい。自惚れでもない経験則から、《献身》は気を引き締めた。
膝の上で固まった《夢想》の手を取り、権能を発動する。冷えた指先を温めるように、繰り返した。
「思います。きっと仲直りできますよ。大丈夫です」
《夢想》の緊張が緩み、体温がわずかに上昇する。照れて頬を赤らめる余裕が生まれたようで、《献身》は安堵した。
《献身》の権能は、とてもささやかなものだ。
私は決して貴方を傷つけない。貴方の力になりたいと思っている──そう本心から願っていることを、信じてもらえる。たっただけ。
そんなちっぽけな権能が、傷ついて不信に凝り固まった魂にはとても有効だった。眼の前の相手が信じられる、自分の助けになってくれると確信できることは、孤独に喘ぐ魂の大きな癒しになる。
そうして癒された魂が羽ばたく瞬間を見るのが、《献身》はとても好きだった。まさしく天職だと、そう確信している。私は、
(私が癒した子が、私を置いていくのが)
「《献身》さん?」
「え? あっ、ごめんなさい。ちょっと集中しすぎちゃったみたい」
実際には集中するどころかぼうっとしてしまっていた。何て失態だと猛省しながら、表情には出さないよう苦心する。
相談の最中に気を逸らすなんて、《夢想》くんに申し訳ない。何か、変な邪念が走ったくらいで。
「すみません。《献身》さん、せっかくの休日なのに」
「いいんですよ。《夢想》くんの相談に乗れて嬉しいです」
夢想の気遣いを嬉しく思いながら首を振る。相談室も空いているところがあったし、少し暇を持て余してもいた。仕事中毒の気がある《献身》は、休日にすることがあまりない。
以前そうこぼしたとき、《夢想》は《献身》に休日に読む本を色々と紹介してくれた。紹介してもらった本はすべて目を通したが、正直、教えてもらった本よりも、《夢想》が《献身》の無聊を慰めようとしてくれたことが嬉しかった。
《夢想》の髪を撫でる。柔らかくて、ふわふわしてて、でも、男の子の匂いがする。前に、木洩れ陽を浴びながら膝枕をしてもらったときも、手を伸ばして、彼の髪に触れたかった。
彼の頭を撫でるのが自分は好きなのだと、ふと気づく。《夢想》を元気づけるつもりだったのに、あべこべだ。
これは良くないと、《献身》はそもそもの《夢想》の相談内容を思い返した。相談に乗るだけじゃなく、もっと具体的に力になれそうだと頷く。
「あの、《夢想》くん。良かったら、私と練習しませんか?」
「ふぇっ?」
顔を上げて目を白黒させた《夢想》はやはり可愛くて、《献身》は少し笑ってしまった。
* * *
「んく、ぷふ、ふ、はっ、はぁー、はぁーっ」
「ふふっ。《夢想》くん、キスの最中は鼻で息をするんですよ?」
まるで溺れている最中のように、口の隙間から息をする《夢想》に、《献身》は優しく助言した。
すぐにもう一度深く口づけると、《夢想》は言われた通りに鼻で呼吸をし始める。必死で、幼いが、飲み込みが早い。元々知識が偏っているだけで賢い子だ。これなら、すぐに……
考えながらも、《献身》の指は休みなく動いていた。《夢想》の天衣の上から股間を揉みしだく。《献身》の細い指に反応して、《夢想》の肉茎が天衣を持ち上げてくる。
十分に発情したのを見計らい、指をもっと下に滑らせた。陰嚢を励ますようにくすぐって、会陰をなぞりながら、尻穴の輪郭を確かめるように縁を揉む。
《夢想》の呼吸が不安げに縮こまったのを察して唇を離すと、《夢想》の涙ぐんだ目が《献身》を見つめた。権能を使い、頬を撫でる。私は貴方の味方だと、言葉以外で言い聞かせる。
「安心して。すぐ、《先導》さんと性交できるようにしてあげますから」
微笑みが、《夢想》の心を開かせた。のろのろと背中を向けた《夢想》が、躊躇いながらも下肢をはだけさせ、診察を願うように剥き身の尻を向けてくる。
実際、それは診察だった。顔を近づけると、《献身》は初々しく窄まった《夢想》の肉襞に舌を伸ばした。ぬるりと湿った舌先に突っつかれ、《夢想》の背筋がビクビクと爆ぜる。
「けっ、《献身》さん、そんなとこ……」
「逃げたらダメですよ、《夢想》くん。ちゃんと洗浄したでしょう?
それに、《先導》さんとするときも、そう言って断るつもりですか?」
言い聞かせると、《夢想》は恥ずかしげに黙り込んで、尻を高く掲げた。
素直な反応に微笑んで立ち上がり、《夢想》の背中に腰を下ろす。膝で腕ごと《夢想》を挟み込むと、尻の下で《夢想》が哀願した。
「あの、あの、《献身》さん、僕、ぅっ」
「大丈夫ですよ……《先導》さんより、優しくしますから」
舌先から唾を垂らし、《夢想》の慎ましい窄まりを汚す。
処女雪を踏み荒らすような興奮を感じながら、《献身》はあくまで優しく、熱心に、《夢想》の肉穴を舌でこじ開けた。
《先導》の陰茎は太く、逞しい。
手の中で跳ねるそれを恭しく握り込んで、《献身》は指を上下した。血管の走る皮がグニグニとずり動いて、引っ張られた赤い亀頭が太い筋にタラリと先走りをこぼす。
椅子に座った男が、下手をすれば《献身》の腰くらいに膨らみそうな二の腕に血管を走らせて息を詰めるのを、《献身》はおかしく見守った。
ぷっくりと充血した鈴口が、首を絞められた蛇のようにパクパク開閉しながら、血よりもドロリとした濃い精液を吐き出してくる。
それを手のひらで受け止めて、《献身》は慣れた手付きで処理をした。使い捨ての薄紙で拭い、消臭袋に入れて口を閉めると塵箱に捨てる。
仏頂面のまま肩で息をする《先導》に、手を洗いながら尋ねる。
「お疲れ様でした。捨ててしまいましたけど、検査もついでにした方が良かったですか?」
「いや、体調に問題はない。ありがとう」
それは、何に対しての「ありがとう」だろうと、頭の片隅で思う。身繕いを済ませた《先導》は、いつもと変わらない澄まし顔だ。
《献身》の職務は天使たちの心身を健常に保ち、場合によっては改善すること全般だ。性的な快楽は心身の負担の緩和に非常に有効なので、《献身》は昔から誰にでも分け隔てなくこういうことをしていた。
《夢想》くんは知らなかったみたいだけど、とチラリと思う。
《夢想》は図書館勤務だし、そういうことに疎かったようなので無理もないが、戦士には血の気が多い天使が珍しくない。戦闘の負担も相まって、昂ぶった体を宥めに《献身》を求める者は大勢いた。
《先導》も常連の一翼だった。とはいえ、理知的な彼が《献身》を求める回数は、他の天使と比べると数えるほどしかない。
ただ、最近その頻度が──《先導》が《夢想》と密な関係になってから明らかに──増えてきていた。
(そんなに、《夢想》くんが大事ですか?)
込み上げてきた疑問を、口の中で飲み込んだ。喉につっかえた言葉が、胸の内で渦巻く。
(《夢想》くんを、汚したくない? 傷つけたくない? ううん。傷つけて、めちゃくちゃにしたくなるくらい、《夢想》くんがほしいんですね。わかります。だって、《夢想》くんって、とっても可愛いもの)
大丈夫ですよ、と心の中で告げて、《献身》は《先導》に振り返った。
《夢想》は飲み込みが早く、その躰は日に日に感度を増している。さっき握りながら計測したが、《夢想》の尻穴は《先導》の男根を楽に受け止めれるようになってるはずだ。一度は怖気づいて失敗したようだが、《夢想》から《先導》を求める日も遠くないだろう。
だから、それまでは。
立ち上がろうとした《先導》の膝に、《献身》は爪先を乗せた。戸惑いに揺れた男の鋭い目に、微笑みを返す。
「まだ、足りないでしょう? 手伝ってあげますね」
「っ? おい、もうじゅうぶっ」
《先導》は昔からいつも仏頂面で。
だから《献身》は、求められたらいつでも、その仏頂面が蕩けて崩れるまで奉仕することにしていた。
* * *
「《献身》。少々時間を頂きたいのだが、良いか」
「《高潔》さん?」
仕事帰りに呼び止められて、《献身》は目を瞬かせた。
戦士たちの宿舎に多忙な統治局勤務の《高潔》がいるのは似つかわしくなく、わざわざ《献身》の仕事が終わるのを見計らい訪ねてきたのだと知れた。
《高潔》とは同じ日に孵化した姉妹と言っていい間柄だが、天使を統括する立場にある《高潔》と、天使を慰撫する《献身》が仕事で顔を合わせることはない。私的な相談、というのも、いつも怜悧な《高潔》からは想像できなかった。
(いつも仏頂面なのは、《先導》さんもいっしょだけど)
ついでに様子をうかがおうと考えていたせいか、そんな連想をする。《夢想》に貸してもらった本にあった能面によく似た《高潔》の表情は、感情自体は素直に表現する《先導》と比べると格段に読みづらい。
その声も常に平坦で、だから《献身》は、《高潔》が最初、何を言っているのかわからなかった。
「貴女に権能を濫用している疑いが生じている。管理局で審査を受けてほしい」
「……はい?」
権能を、濫用。冗談かと思ったが、《高潔》が冗談を言うはずがない。
権能を濫用。それはつまり、堕天の兆しが出ているということだ。
私が? 最近の権能使用の履歴を閲覧するが、どれも問題ない範囲だ。
《夢想》の開発は、休日なのはともかく、《夢想》に相談を受けてのことで、合意を得ている。《先導》を搾精したのは、今まで通りの対応。うん、どれも合法だ。
「あの、何かの間違いでは? 覚えがないのですが」
「貴女の所感は聞いていない。審査を受ければ自覚の有無に関わらず兆候を検知できる。そうすれば未然に防ぐことも可能だ」
《高潔》の言葉はまっすぐで、正しい。堕天使になったら良くて殺処分、悪くて牢獄送り──実験台にされ切り刻まれるか、思考能力を奪われ権能を使うだけの道具にされるか。
いずれにせよ、みんなとはもう会えなくなる。《夢想》とも。
「わかりました。一度私室に戻ってからでも構いませんか?」
「今日中に頼む」
素直に頷いたせいか、多忙な《高潔》は詮索せず背を向けてくれた。よかった。
安堵しながら頭上の天輪を連絡形態にして、急いであちこちに霊子文を送る。
急がないとと思いながら、それでも足は《先導》の部屋に向いた。《夢想》から仲直りできたと嬉しげに報告を受けていたが、その後どうなったのか確認しないといけない。自分は、彼に、相談されたのだから。
「え?」
そう思って足早に訪ねた《先導》の部屋は、しかし留守だった。戸惑って、開かない扉を見る。
今日は、《先導》は休暇のはずだ。だから私は、彼を訪ねて来たのだ。《夢想》と上手くやれているか見るために。進展したか、確かめるために。だから。
《献身》は扉に触れて、部屋の中を見せるよう命じた。医療業務に長く真面目に務めているおかげで、緊急時に私室の中を確認する権限を与えられている。あまり使う機会はなかったが。
《献身》の視界でのみ、《先導》の私室の扉が透明になる。
部屋の中で、《先導》は全裸で《夢想》にのしかかり、汗を散らしてその躰を貪っていた。
「ぁふっ、ン、ンっ、ぉ゛、あ゛ぁ゛っ」
本来なら扉に阻まれる《夢想》の甲高い悲鳴と濁った嬌声が、《献身》の耳に届く。廊下には響いていない。権限を利用した《献身》にしか、この声は届いていない。
そう思う一方で、その声を真の意味で浴びているのは《先導》だけだとも気づいていた。《夢想》の決して細くない男の子の足を肩に乗せて股を開かせ、太い腰をゆっくりとあの柔らかい尻に打ち付けている。
表情はいつもと変わらないが、その眼差しは欲情に燃え盛り、熱情に反して動きは穏やかで優しかった。腰は蝸牛のように緩やかに、《夢想》の手を握る指先は優しく、頬に添えた手はいたずらに耳や唇をくすぐっている。
天衣を脱ぎ捨てた一糸まとわぬ裸体は、汗ばむ肌と筋肉の震えを残らず《夢想》に晒していた。腿を震わせて強い快感に涙ぐんだ《夢想》が、《先導》と視線を交わらせて、嬉しげに泣き笑いする。
(《夢想》くんは、美味しいですか? 《先導》さん)
それを見つめながら、《献身》は心の中で問いかけた。誰も見ていない唇が、誰も見たことがないほど歪に吊り上がる。
(良かったですね。私も相談に乗った甲斐がありました。感謝してくださいね? 貴方がそんなに気持ちいいのは、私のおかげなんですよ。これから、《夢想》くんとするたびに、《夢想》くんをこんなに淫らにしたのは私だって思い出して……)
誰にも届かない繰り言が、止まる。《先導》の首に腕を回し、キスをねだる《夢想》を見て。
《先導》の唇が見たことのない形で微笑うのを、《献身》は見た。どうでもいいことなのだと、悟る。
部屋の中で、ふたりきりで睦み合う二翼にとって、《献身》が《夢想》を穢したことなどどうでもいい。穢されたとすら思っていないかもしれない。次に会ったら、本当に感謝されるかも。
《献身》さんのおかげで、《先導》と上手くいきました。
そう嬉しげに報告する《夢想》が鮮やかに目に浮かんで、《献身》は膝から崩れ落ちた。
その肩を、誰かが掴む。
「ちょっと、どうしたの?」
《怪力》だった。
* * *
「あっ、ああ、ごめんなさい。ちょっと、立ち眩みしちゃって」
そう言い訳して、手を貸してもらって立ち上がり、《怪力》を見下ろす。《献身》のほうが頭一つ分は背が高いが、小柄な《怪力》はその名の通りの力持ちだ。
生まれ持った素質に甘えず厳しい鍛錬を真面目にこなし、実戦を経験した今では、一対一なら《先導》とさえ互角に渡り合う腕前と聞く。
でも《献身》にとっては、可愛い女の子だった。その癖っ毛を何度梳いてあげたことか。肌を重ねたことは、ないけれど。
そういえば、この子も《夢想》くんと仲が良かったなと思い出す。
教えてあげたら、どんな顔をするだろう。尊敬する上官が、今どんな顔で《夢想》を貪っているのか、見せてあげたら。
《献身》が何を考えているのか知るわけもなく、《怪力》は眉をひそめた。
「ねえ、だいじょうぶ? 顔色悪いよ?」
「……ごめんなさい。疲れが溜まっているのかも。このところ少し、忙しかったから」
「ああ。それで最近よく見かけたんだ。
ったく。ほんと、誰にでも優しいんだから」
そう忌々しげに呟いて、《怪力》は《献身》の手を引っ張った。強引で、けれど、痛くはない。
振りほどくわけにもいかなくて、《献身》は戸惑いに声を揺らした。
「あの……?」
「いいから。ここにいたらまた用事を頼まれるでしょ? あんた自分じゃ断らないだろうし、部屋まで送ってってあげる」
ぶっきらぼうな物言いが、酷く優しかった。武器を握って固いタコができた手のひらが温かい。
そう──《献身》は誰にでも優しいけれど、この子はいつも、私に優しかった。
「私、羨ましかったのかもしれません」
ぽつりと零れた言葉は、《怪力》には何のことかわからなかったろう。
構わず続ける。夕立のように、言葉が降りしきる。
「《献身》は誰かの役に立ちたくて、誰かに尽くしていれば、それで幸せだったけど、でも、だから私は、誰のものでもない。私が誰かに触れても、役立っても、それは特別なことじゃなくて、感謝されたら嬉しいけど、でも、私は」
世界で互いだけだと叫ぶように抱き合っていたふたりが目に浮かぶ。
他の誰かと触れ合うことと、貴方と触れ合うことは同じじゃないのだと、幸福を分かち合うように喜び合っていた、ふたり。
「私だって、独り占めしたい。私を、独り占めしてほしかったのに」
これが恋だったのだと、初めて《献身》は認めた。破れた心の壁から、濁流のように感情の渦が吹き出す。
雲の切れ間から射し込む光のように、《怪力》が吹き出した。
「なんだ。あんたも、そんなこと考えるんだ」
迷路から抜け出したような顔で微笑う。蕾が咲きほころぶような、その笑顔に目を奪われる。
「私ずっと、あんたのこと、そうしたいって思ってたのに」
気づかず咲いていた恋だった。知らぬ間に、自分で踏みにじっていた恋だった。気づいたときには花は泥まみれで足の裏で潰れていて、悲しくて泣いていた。
そしたらこの子が、一瞬で、流れ星のように、次の恋に連れてきてくれた。
「……ありがとう」
感謝して、足を止める。戸惑った《怪力》が、逆らわずに自分も足を止めて振り返る。
いつの間にか、外に出ていた。草が足元をくすぐって、風が髪を撫でる。青空の下で、《怪力》の桃色の髪を、勝ち気な目を、小さな力強い体を、しっかりと目に焼き付ける。
権能を使う。これから告げるのが本心だと、心から信じてもらう。それが濫用だなんて、髪の毛ほども思わない。
「私も、貴女だけでいい」
警報が鳴り響く。《献身》の最近の治療を受けて堕天した戦士たちが、宿舎を揺らして吠え猛る。
騒音を背に、《献身》は嘘偽りなく微笑んだ。名残惜しいがほどかないといけない指先を、約束の形に結ぶ。
「だから、いつかきっと、迎えにきますね」
再会を誓って、背を向けた。軽やかに走り出す。
楽園を追放されるその足取りは喜びに満ちて、だから女は、己の翼が黒く染まっていくことを、ちっとも気に止めなかった。