蠖シの鬘倥>を叶えてくれ

「願い事が叶う薬だぁ?」  車掌の手渡してきた妖しい色合いの液体に、オーストは口を歪めた。瓶の中で揺らめく水面はわずかに泡立ち、弾けても粘着質な泡が残って気持ち悪い。 「駅の忘れ物ですが、以前蟆丈ソオ小俵さんが届けてくださったものでして。  期限内に名乗り出る人がいたかったので、所有権は彼に移ります。渡しておいてくれますか?」 「めんどくせぇな。なんだよ、願いが叶うってのは」 「ラベルにそう書かれていると、繝偵ぜヒズさんが」  胡散臭い半魚人の名を出されて、オーストはそれ以上関わる気が失せた。とにかく了承して受け取って、帰った後で同居人に渡す。  話はそれで終わり。のはずだった。   *  *  * 「なんで飲んだんだよ!?」 「だって、元の世界に帰れるかもしれないでしょ?」  平気な顔で怪しい薬を飲み干した男に、オーストは声を裏返させた。何度見ても瓶は空で、ハッキリ言って正気を疑う。 「よく飲めるな、そんなん……そんなに帰りたいのか?」 「俺じゃなくてさ、オーストを帰せないかなって」 「別に不味くなかったよ」と当たり前の顔で言われ、オーストは薬を渡されたときの比ではなく顔を歪めた。  この男の、こういうところが嫌いだ。自分を顧みず他人を助けようとする態度が、オーストを惨めにさせる。 (どうせオレは卑しい盗人だよ)  元の世界では斥候はそう呼ばれ、闇に属する者と見做されていた。功績を上げても感謝されず、腕が立てば警戒され、役立たずなら罵倒される。  この世界に来て、成り行きでいっしょに暮らしているこの男は、当たり前にオーストの面倒を見て、見返りを求めず、たまにオーストが役立つと感謝してきて…… (イライラする)  舌打ちして、オーストは部屋の隅に座った。 「そうかよ。じゃ、帰れそうなら教えてくれや」 「うん」  朗らかに頷いた男が棒立ちのままなのが、オーストの癪に障った。 「座れよ」 「うん」  言われた通り行儀良く正座(とかいう足が痺れる座り方)をした男が余計に苛立たしくて、オーストは彼を睨めつけた。  兜とゴーグルを付けっぱなしの男の顔が、やけに赤らんで汗ばんでいた。 「ねずお? おい、どうしたっ?」  名前が上手く発音できなかったので付けたあだ名を呼びながら駆け寄る。  ねずおは途方に暮れたように、オーストを見上げた。 「どうしよう、オースト。  なんか、おまえの言うこと、なんでも聞きたい」 「ハァ?」   *  *  * 「つまり、願いを叶える薬じゃなくて、他人の願いを叶えたくなる薬だった、と」 「そうっぽい……」  いつもと変わんねえじゃねえか、怪しい薬を飲むからだ、自業自得だろ、などと言いたいことはあったが、いつになく弱った様子のねずおの表情に、オーストは舌打ちで済ませた。 「で? 薬が抜けるまでじっとしてりゃいいんじゃねえの?」 「や、なんか、お願い聞きたくて、ムズムズする。なんか、頼んで、頼むから」  チグハグなおねだりに、オーストはめんどくせぇなと嘆息した。 「分裂したら早く抜けたりしねぇの?」 「やってみる……」  ねずおがいつもの魔法(違うらしいが、オーストには区別が付かない)で分裂する。合計のサイズは変わらないのでそれぞれぬいぐるみくらいの背丈になった四人のねずおが、そっくり同じ表情で見上げてくるのに、オーストは(ダメっぽい)とうんざりした。 「んじゃ、おすわり、はもうしてるか。お手」  戯れに差し出した手に四人揃って拳を乗せてくるのに、オーストはちょっと愉快になった。このまま犬の芸をさせてやろうか。  そう考えて、ねずおのゴーグル越しに潤んだ目を見つけて、オーストは沈黙した。  赤らんだ頬。火照った息。風邪ととぼけるには色っぽい症状をオーストが悟ったのを、ねずおも察した。  気づかなかったフリをして、薬が抜けるまで一人でいるよう命じることもできた。  だが、ねずおの迂闊さに苛立っていたオーストは、ちょっと痛い目見せてやろうと立ち上がり、自分の股ぐらを指さした。 「……舐めろよ」  ねずおが嫌悪感を示したら、すぐに「冗談だよ」と撤回するつもりだった。  駆け寄ってきたねずおに、飢えた子犬のように舌を伸ばされて、理性はあっという間に煮えて蒸発した。   *  *  *  お上品な生き方はしてないので、オーストは童貞ではないし、男とも経験がある。  ねずおがどうかは知らないが、分裂したねずおが三人同時に奉仕してくるのは中々昂った。チロチロと躊躇いがちに伸びてくる舌は  一人が右の玉を口に含んで、もう一人が左を、もう一人が竿を頬張る。チロチロと躊躇いがちに舌を伸ばし、オーストの取り立てて特徴のない男根を苦しげに頬張るねずおの表情に、オーストの口の端が持ち上がった。 「えーと、太腿を撫でながら、舌で転がして、歯は立てないように……」 「おい、うるせぇよ」 「だって、ちゃんとしたほうがいいでしょ?」  残った四人目が通信端末とかいう魔法具で口淫のコツを読み上げるのに、オーストは舌打ちして四人目の腕を引っ張った。  その口にかぶりつく。いきなり舌を入れられてびっくりしたねずおはされるがままで、すぐに絡んだ息が蕩けてきた。  清廉ぶった騎士様(ねずおは違うと言うが、閾ェ隴ヲ蝗自警団とやらの説明を聞いてもオーストは違いがわからなかった)が、自分なんかの手管で善がってる。屈折した鬱屈が腹をくすぐるのに逆らわず、オーストは放尿する心地でねずおたちの顔面めがけて射精した。  腫れた陰部が吐き出した白濁が、ねずおの白い兜に垂れ下がる。尿道が蕩けるような心地に、オーストは(ざまぁみろ)とひとりごちた。  ぼんやりした顔を撫でて、指についたオーストの精液を見つめたねずおは、へにゃり、と褒められた犬のように笑んだ。 「気持ちよかった?」  その笑顔が、また腹立たしくて。  オーストはズボンを脱いで自分に尻を向けるよう、ねずおに命じた。  ねずおは逆らわず、嫌がる素振りも見せなかった。   *  *  * 「なぁ、すげー緩いんだけど、なんで?」 「わっ、わかんない」  ねずおの尻穴は潤んだ女陰のようで、すんなり指を咥えてむしゃぶりついた。あの薬の効果なのだろう。「願い事を叶える」なんて、結局は卑猥な媚薬だったのだ。  薬のせいとわかっていても面白くなくて、オーストは他のねずおにも見えるように指を動かした。無様に声を蕩かせた自分の顔に、ねずおたちは恥じらったり、不安がったり、期待したり。  いつもの呑気な顔が乱れるのに昂り、オーストは乱雑に勃起した逸物をねずおの尻に捩じ込んだ。 「あっ、オースト、ゴムっ、避妊!」 「男なら要らねえだろ」 「病気とか感染予防とかあるでしょっ」 「あー、病気になるな。感染るな。これでいいか?」  ねずおは目を白黒させたが、オーストは構わず腰を前後させた。これで大丈夫だと、魔法のある世界で生きた経験が告げていた。  四分の一のねずおは猫みたいなサイズで、それがギュウギュウちんこを締め付けてくるのが笑えた。ちっちゃな足をつかんで腰を振る。  薬の効果でねずおは逆らわない。薬がなくても逆らわなかったかもしれない。相手がオーストじゃなくても。 (ムカつく)  衝動のままにオーストはねずおに腰を打ちつけて射精した。睾丸からひり出た精液がねずおの腸内にこびりつくのを幻視しながら、背筋を震わせる。  汗ばんだ体が気持ち悪くて、今更上を脱いだ。よだれを垂らした間抜けヅラで、ねずおがオーストを見上げている。 「ぉー、すと」  へらりとした顔が何を聞いてくるかわかって、オーストは黙らせるように性器を抜いた。乱暴に穴の縁を抉られたねずおが小さく喘ぐ。  オーストの男根はまだ反り返り、赤い亀頭がヌラヌラと精液と粘液で照っていた。連発した金玉が痛いのに、沸騰するように種を湧かせている。 「つぎ」  短く告げると、次のねずおがおずおず進み出てきた。  その腕をつかんで、命じる。 「善がれ」 「えっ?」  ねずおが命令を認識する前に、唇を奪った。娼婦にそうするように舌を絡ませる。コイツ、初めてだったのかなと今更疑問に思いながら、オーストはそのまま二人目のねずおを組み敷いた。  発情したねずおの体は、素直にオーストを迎え入れた。待ってる間に自分で慣らしたのかもしれないが、労わるのも癪で腰をつかみ、乱暴に性器を突き入れる。ねずおのちんこも腫れているのに、今更気づいた。  分裂したねずおの腰は両手で一周できるほど小さい。肌を擦り合わせるように抱き寄せて、その小ささに新鮮に驚く。ねずおの手が腕を引っ掻くのを無視して、オーストは今度はゆったりと腰を前後した。  オンナを悦ばすようなテクなんて知らない。その気もない。ただ、薬だけでねずおが善がり狂うのが気に食わなかった。 「ぷはっ、オースト、ま、まって」 「うるせぇ」  命令一つでねずおは黙ったが、それがまたムカついた。  もう一度キスをする。腕の中で身を捩らせるねずおが小さくて、彼より強くなった気がして、オーストは絶頂した。  他の何よりも、オーストが射精したことがねずおを昂らせたようだった。子どもサイズになったちんちんがつられたふうに汁を溢しているのを見ながら、オーストは身を離した。  さすがに腰がだるいが、まだ足りない。自分にも薬が伝染っているのかもしれない。目が合った三人目に、オーストは短く命じた。 「オレに乗って、自分でイイところを突け」 「えっ。それは、あの、」  ねずおは戸惑ったが、オーストがあぐらを掻いて勃起を振ると逆らえなかった。  フラフラと近寄って、膝の上によじ登ってくる。オーストの根本をそっと摘むと、ねずおはプルプル震えながら尻を下ろした。  ねずおの動きは不慣れだったが、尻穴は相変わらず潤んでいる。これで三回コイツの処女を奪ったことになるのかと、オーストはチラリと考えた。 「ぁっ オースト、オースト こぇ、ヤバぃっ」 「ヤバくなれっつってんだよ」 「じゃなくて、あしっ」  体が四分の一だから筋力が足りないのか、とようやく気づいた。爪先立ちになってオーストの上で腰を振るねずおは無様で笑えたが、それなら躊躇う理由もなかった。 「なら戻れよ」 「えっ。そ、それはまず」 「いーから、早くしろ」  重ねて命令すると、ねずおは逆らえなかった。出番を待っていた四人目と、尻穴を膨らませながら息を整えていた二人が、三人目と融合する。 「ふぁ ぁ ア──」  途端、元のサイズに戻ったねずおが、オーストの上で絶頂した。  そういえば、一度に戻ると一気に記憶と経験が統合されるんだったか。今ねずおは二回分の絶頂をいっぺんに味わっているらしい。  いや、三回ぶんか。元のサイズに戻って締め付けと圧を増したねずおに搾り取られ、オーストは四度目の吐精をした。ビリビリと腰から火花が散り、ねずおと繋がった性器が痙攣する。  それに味わいを深めたねずおが背中を仰け反らせ、布団に倒れる。 「な、ぁっ。おまえ、どこ触られんの好きなの?」 「ぁ、ちく、び──」  予想外の答えだったが、オーストは繋がったままねずおの胸に手を伸ばした。訓練で鍛えて厚みのある胸板が、脱力して女の乳房のように柔らかい。  意外と心地よい弾力を楽しみながら乳首を引っ掻くと、ねずおはヘルメットを布団に打ちつけて悶えた。 「ははっ。ここは開発済みなのかよ」 「だっぇ、するの、きもちいい、言われてっ」 「正解じゃん。ほーれ」  カリカリと爪を立てると、ねずおはシーツをつかんで悶えた。胸を庇おうとする仕草を見せたので命じて禁じる。手を伸ばす。 「おー、すと? なにして」 「オレも飲んだって変わんないだろ」  瓶は空だったが、一滴か二滴くらいは薬液が残っていた。  舌で舐めとると、思った通り、さすがに萎えていた陰茎に力が戻る。ねずおの胸を鷲づかみにして、命じる。 「ほら、言ってみろよ。気持ちよくしてくださいって」 「ぁっ、やさ、やさしくしてっ」  この期に及んでつまらないおねだりだったが、叶えてやりたい衝動が湧いてきて、オーストは優しく乳首をつまみながら身を屈め、恋人のように甘いキスをした。  唇を合わせて、吐息を重ねる。縋り付いてきたねずおの腕に抱き寄せられて、肌を重ねる。  ねずおは何度もオーストを呼んできて、うるさかったが、黙らせようとは思わなかった。   *  *  *  薬の効能なのか、子種で腹を下すことのなかったねずおが、痛そうに腰と尻を庇う一幕があったものの、一晩で薬は抜けて、ねずおが狼藉に怒ることもオーストを避けることもなく、またいつも通りの進展のない日々が帰ってきた。 「おまえさ、なんでオレを帰してぇの?」 「んー、俺さ、たぶん、元の世界だと死んでると思うんだよな。  だから、帰りたがってるやつは、帰してやりたいっていうか」  予想通りのつまらない話だったので、オーストは「そうかよ」と話を終わらせた。イライラして、小石を蹴る。  どうしてこんなにムカつくのか。きっと溜まってるせいだ。この間盛大に抜いたから、欲求不満に我慢が効かなくなっている。  ねずおを睨むと、何もわかってない顔で首を傾げてきた。 「大丈夫か? またするか?」 「……する」 「エっホントに!?」  自分から誘ってきたくせに驚いたねずおの脛を蹴って、オーストはひとりごちた。 (元の世界に、おまえはいないじゃんか)  それが腹立たしい理由を言葉にできず、オーストはもう一度ねずおの脛を蹴った。