暁にカササギ羽ばたき燃え尽きる

 その出会いは偶然だった。何の必然もなく、ただ運命だけが狂っていった。  その日は零時の体調が良く、久方ぶりに深夜と連れ立って街を散策した。  居並ぶ屋台を冷やかして、ラムネを買った。零時が瓶底のビー玉を物欲しげに見ていたので瓶を取り上げたのを、よく覚えている。 「深夜、あの子」  そろそろ帰ろうかという黄昏時。零時が指さしたのは、市場の片隅でうろつく、小汚い女だった。  着ている服はボロ同然で、今にも乳房がまろびでそうだ。首に巻かれた飾り紐は赤く、喉元を飾る珠はくすんだような灰色。表情は白痴めいて、卑猥な己の姿を恥じる様子もない。  その白髪から狐の耳が生え、背に灰色の毛並みの尻尾が揺れていなければ、すぐに零時の目を塞いでいただろう女だった。 「君、もしかして憑神かい?」 「?」 「えっと、君の主人は? 近くにいないのかな」  深夜が止めるのも聞かずに零時が声をかけると、狐と思しき女は首を傾げた。違うのか。口が利けないのか。言葉がわからないのか。判断できず、零時と顔を合わせる。  深夜を憑神にしてから、零時はしばしばこの世ならざるものを見るようになった。神憑きとなった影響か。認め難いことだが、幼い頃から病に臥せり死に近い零時は、霊視の才能があったのかもしれない。  この女は本当に憑神なのか。戸惑いが過ぎ去るより先に、女が零時の顔を覗き込む。 「うわっ?」 「ッおい!」  深夜が引き剥がそうとするのをすり抜け、女は深夜の顔も覗き込んできた。クンクンと匂いを嗅ぐ仕草をして、何故か顔を顰めた。  一転、にぱっと童女のように笑って、女は踵を返した。止める間もなく人混みに紛れていなくなる。  また深夜と顔を合わせて、零時がつぶやいた。 「なんだったんだろうね?」 「さぁな」  もう帰ろうと促すと、零時は素直に頷いて、いっしょに帰った。  その時は、ただそれだけの話。  結局零時はその女に再会することはなく、女の本性に気づくこともなかった。  それで良かったと思う。心から、本当に。
*  *  *
 目蓋を開くと夕暮れが目に入り、深夜は自分が束の間寝入っていたのを自覚した。弛んでいる、と自覚して苛立ちを覚える。  本質は呪いの塊である憑神は、睡眠も食事も必須ではない。だが、生き物であった名残りか、気を抜くと意識が途絶えてしまうことがあった。  しっかりしろと己に言い聞かせ、背に翼を広げて羽ばたく。見咎める者はいない。独学で覚えた隠形はつたないものではあったが、霊視のできない人間から姿を隠すには十分だった。  今しがた見ていた夢を思い出し、苦く口を噛む。  あれは、過去の記憶だ。まだ零時が生きていた頃。あの後、深夜の成すべき使命を理解させた出来事の、前触れ。 (憑神はすべて殺す)  決意を新たに電信柱の上から目を凝らすと、目をつけていた標的がちょうど畦道あぜみちを歩いているところだった。  巨漢と形容するに相応しい男のこめかみには、牙のような形状の黒っぽい角が一揃い生えている。研いだような光沢のそれは、恐らくはカモシカの角──間違いなく憑神だ。  数日前に見かけたものの、筋骨隆々とした体躯は正面から襲うには分が悪かった。巨漢の顔や肌には大きな傷痕が走り、図体だけではない歴戦の強者だと一目でわかる。  あの丸太のような腕で殴られれば、一撃で意識を刈り取られかねない。行きずりの人間を主人にしている深夜には致命傷だ。  それでも退くという選択肢はなかった。  勝てる戦を選んでいるわけじゃない。退けないから戦っている。  だから。  カモシカの巨漢が、靴紐を結ぼうと下を向く。  民家が影になって頭上の深夜に気づけない絶好のタイミングに、深夜は躊躇なく跳躍し、手にした矛を男の首めがけて振り下ろした。 (獲った──!) 「すまんな」  鉄塊が腹にめり込むような衝撃に、深夜は自分の意志でなく宙を舞った。  視界が二転三転し、自分が地べたを転がっていると気づく。咄嗟に顎を引き受け身を取れたのは修羅の日々の賜物か。  何が起きたのか。悠然とこちらを見下ろす巨漢の静かな表情に、悟る。 (待ち伏せ……罠か!) 「っと、やりすぎたか。術で癒せる範囲にしろと言われておったのに、抜かったわ。  やはりこういうのは千渦ちかのほうが向いていたんじゃないか?」 「千渦さんは生け捕りに反対でしたから。  指示に従ってくれるあなたが適任ですよ、キング」  白布で顔を隠した黒衣の人間たちが、あちこちから姿を現す。  神連かみつれ。人の世を守るため憑神に対処するとうそぶきながら、我らが討つのは人に仇なす憑神のみと日和る軟弱者ども。  協力を求められたが断った。その返答がこれか。  矛を支えに、ふらつく足で立ち上がる。あの衝撃の中で武器を手放さなかったのは、我ながら大したものだった。 「まだ抵抗しますか。がんばりますね」 「当然、だ。憑神はすべて、殺すっ!」 「すべて、ですか。憑かれた神憑きも、その家族も、みんな? あなたはやりすぎなんですよ、深夜。  零時さんだって、そんなことは望んでないでしょうに」  最愛の主人の名を口にされて、視界が煮えた。咆哮して羽ばたく。  逃げるなど頭にも浮かばない。勝ち目がなかろうが絶望的だろうが、戦う。でなければ。 「あなたは自分が許せないだけなんでしょう? 深夜」  影を踏まれ、深夜は無様に転倒した。深夜の背後を取った神連が、覆面の下から冷ややかな視線を投げてくる。  呪いの塊である憑神には、他の呪いが効きづらい。そのはずなのに、人間の呪術に抵抗もできないほど弱っているのを自覚して、深夜の虚勢が揺らいだ。  その隙を見逃さず、深夜を囲んだ黒衣が声を唱和させる。 「ただ主人を死なせてしまった自分が憎いだけ」 「ただ主人のことが忘れられなくて辛いだけ」 「だから亡くなった主人に仕えるすべを探して、逃避して、関係ない者に当たり散らしているだけ」 「……黙れ」  睨みつける力は強く、声が低く唸る。  そのまなじりが潤んでいたのを、果たして深夜が自覚できたかどうか。 「良いことを教えてあげましょうか。  あなたの主人、天見 零時は病死ですよ」    何を言われたかわからず、目が瞬く。  次第に理解して、じわじわと悪寒が忍び寄る。冬の海に足が攫われたように、破滅が眼前に迫っているのを自覚する。 「天見家に資料が残っていました。ガラス玉を飲んだのは彼の寿命に関係ありません。  天命を理解し、最期の慰めに飲んだのだろうと、ご父君が貴方宛にしたためた手紙に記されていましたよ」 「嘘だ」 「本当です。こんなこと、一度でも天見家を訪れていたらすぐにわかったことでしょうに。  今からでも行ってみますか? あなたにその勇気があれば、ですが」  返答ができない。喉にガラスが詰まったように、声が出せない。  零時の姿が目蓋に広がる。けれど、その顔は墨に落としたようにぼやけて掴めなかった。  零時が思い出せない。ちがう。覚えている。でも顔が。表情が。わからない。零時がどんな顔で笑っていたか。どんな声で。 (深夜。僕を忘れないで) 「れいじ」  呻いた深夜の腕を、神連が掴んだ。上体を起こされ、羽を縛られ、顎を引かれる。  眼前の神連が、懐から鈍い輝きのビー玉を取り出した。  懐かしい輝きに、深夜は目を見開く。 「わかりますか? これは天見 零時の亡骸が火葬された際、融けたガラス玉を鋳直したもの。  つまり、天見 零時の遺灰が融け込んだ、彼の形見です」  無理やりに口を開かれる。首を振ろうとして叶わないのに、今度こそ絶望する。目を閉じることもできない。  なにか、悍ましいことをされる。なにか、とても恐ろしいことを。わかっているのに、抵抗できない。  ビー玉を摘んだ神連が、それを深夜の口にねじ込んでくる。唇が割り開かれ、舌を転がり、喉奥へ滑り込む。
深夜洗脳/画:明科 久
(たすけて。れいじ)  喉を通る冷たく重い感触に、これが彼が最期に味わったものなのだと思った。
*  *  *
(これから、どうすればいいんだ)  途方に暮れて、深夜は夜の街をさすらっていた。  適当に降りたのだが、この街はどうやら夏祭りのようで、いつも以上に屋台が多い。あちこちから響く口上が喧しく、笑いさざめく人々が憎らしく思える。 (零時が死んだのに)  暗い想いが頭をよぎり、そのたびに振り払う。考えたくない。零時が死んだ。いやだ。もういない。いやだ。もう会えない。いやだ。二度と。やだ。  泣きわめいてもどうにもならなかった。喉が張り裂けるほど鳴いたところで、慰めてくれる人はもういない。  左眼に触れる。零時がくれた義眼。コートに触れる。形見分けだと置かれていた、零時のコート。  他にも何か渡されそうになったが、これ以上は何もいらなかった。何も聞きたくなかった。  うずくまり、思い出に浸ろうとする。 「おい、にいちゃん、どうした?」  なのに、赤ら顔の酔っ払いに絡まれ、深夜は唇を噛んだ。  零時のことしか考えたくないのに、零時のことを考えたくない。矛盾する思考に頭が引き裂かれる。 「放っておいてくれ」 「おいおい、女にでも死なれたか? そういうときは飲むのが一番だぜ!」  馴れ馴れしくお節介な男の酒臭い息が腹立たしく、しゃがれた声で怒鳴ろうとして、深夜は戸惑った。  酔っ払いは、泣いていた。酒で涙腺が緩んだにしては、その涙は重く真に迫っていた。 「おれもなぁ。女房と娘に先立たれて……美人だったんだぜ。なのに、流行病でなあ」 「そう、か」  どうしていいかわからず、杯を受け取る。酒は苦手だった。飲んだことがない。臭いもまずそうで、口にする気が起きない。  だが男は上機嫌に肩を叩いてきて、その拍子に中身がこぼれてしまう。 「おい、痛い!」 「ははっ、悪い悪い。飲んで忘れようぜ! 生きていくのが一番の供養だ」  その言葉が、苛立ちに火を点ける。生きていくってなんだ。俺は憑神、獣の死霊だ。深夜が死んで、なぜ生きていかねばならない。  拒み続けるのも負けたようで癪で、杯にほんのちょっと残ったアルコールを見下ろす。このくらいなら飲めそうだ。  一気に煽る。苦い。不味い。食道が熱く、腹がカッカッとする。 「おう、にいちゃん。真っ赤だぞ? 酒弱いのか? 無理すんなよ?」  今更気遣ってくる酔っ払いをキッと睨みつける。  酒は案の定不味くて最悪の気分だが、頭は冴えて、やりたいことがハッキリした。 「忘れたく、いっ!」  自分ではキッパリと言ったつもりだが、口にしてみると呂律が回ってなかった。恥ずかしくてますます頬が熱くなる。  だが。男は笑わず、神妙に頷いた。 「……そっかぁ。そうだよなぁ」  しみじみと言われ、深夜は毒気を抜かれた。  男は在りし日を見つめるように呟いた。 「生きて、忘れないでやるのが、一番だよな」   *  *  * (深夜。僕を忘れないで)  いつだったか、零時に言われたことを思い出して、深夜は微笑んだ。  酒と人混みで火照った頬に、夜風が心地よい。素直にそう思えて、酔い醒ましに買ったラムネ瓶を眺める。  零時のことを忘れず、生きていこう。そうだ、墓参りをちゃんとしてない。ご両親と兄君にも、きちんと別れの挨拶をせねば。  やりたいことが次々に見つかって、そんな自分に苦笑する。零時も笑っている気がする。そう思えたことが嬉しい。 (礼を言わないといけないんだろうな)  隣にいる酔っ払いをチラリと見る。相変わらず泣いたり笑ったり忙しく、感謝を口にするのは抵抗があるが、礼を失するわけにはいかない。  口を開き、最初の「あ」を音にしたところで、深夜は夜道に見覚えのある顔を見つけた。 「ん? どうした、にいちゃん」 「あ、いや、見たことのある顔が」 「んー? おっ。いい女じゃねぇか! 隅に置けねぇなぁ」  深夜が指差したのは、かつて零時と遭遇した、狐の女だった。燃え尽きた炭のような毛並みの髪と尻尾。頭から生えてそこだけ色の灯った狐の耳。夕陽色の目。首に巻かれた紐と丸い珠。ほとんどはだけた、ボロ同然の服。  やはり常人には耳と尻尾は目に入らないらしいが、それを差し引いても浮浪者同然の格好だろうに、酔っ払いは顔と乳房しか見ていないらしい。だらしなく鼻を伸ばして、女の元へ小走りに寄っていく。 「おぉい、ねえちゃん、いっしょに呑まねぇか?  おっ、なんだいなんだい、積極的だねぇ」  あのクンクン匂いを嗅ぐ仕草をして、にぱっと笑った女が物陰に酔っ払いを引っ張っていくのを見て、深夜は慌てて後を追った。  別に好きにすればいいが、まだ礼を言っていない。さすがにそういったことが終わるまで待つのはごめんだ。  人混みから抜けた先の林に酔っ払いの顔を見つけて、とにかく多少恥ずかしくても、もう言ってしまおうと大きく息を吸って、深夜はそのまま凍りついた。  酔っ払いは、首だけになっていた。  裂けた喉から血が滴り、酒と血が抜けた顔が青ざめ、とろんとしていた目は白目を剥いて、酒臭かった口は呆けてだらりと舌を伸ばしている。  白髪の混じる髪を掴んでぐるぐる振り回しているのは、狐の女だった。 「おまえ……!!」  狐が不思議そうに首を傾げた。その口が、真っ赤に染まっている。  白い裸足は、血に浸かっていた。暗闇と酒の残り香で気づかなかった血の臭い。首をもがれ、腹を割かれ、服を剥ぎ取られ貪り食われた、男の死体。  絶叫して掴みかかる。女の細腕は幼子のように熱く、そのくせビクともしない。  どうして怒鳴られているのかわからない。そう言いたげな、白痴めいた表情のまま、女は深夜の腕に触れて。  片手で深夜を持ち上げて、樹上へと放り上げた。 「ガッ!?」  幹に頭をぶつけて視界が揺れる。羽を出すことも思い出せないまま、落下した先で女に蹴られ、深夜は林を転がった。  湿った地面の臭い。名前も知らない酔っ払いの顔。言葉。生きて。忘れないでやるのが。一番の。  顔も名前も知らない、もう永遠に思い出されることもない、男の妻子。  女が、深夜を見下ろしている。顔を覗き込んで、クンクンと匂いを嗅いで、あの顰め面をして、離れていく。  それが、「不味そうだから要らない」という表情だとやっと気づき、深夜は腕を持ち上げた。  だが立ち上がれない。力が入らない。暴力の衝撃か。それとも酒のせいか。  酔っ払いの首を捨てて、女が去っていく。転がった生首と目が合う。俺のせいで死んだ。零時も。この人も。  闇に溶けていく白い背中を睨め付ける。血に濡れた手足。おぞましい。殺すべき。邪悪な。 (ああ、そうか)  自分がすべきことが、やっとわかり。深夜は呻いた。 「必ず、ごろしてや゛る」  鼻血で濁った声は女に届かず、聞こえていたとしても、女は理解しなかったろう。  だがこのときから、深夜の使命は定まった。  憑神はすべて悪。憑神はすべて殺す。  零時がどんな顔をしているかは、もうわからなかった。
*  *  *
 ぼんやりと夢から醒めて、深夜は首を傾げた。  今、なんの夢を見ていたんだろう。どうして寝ていたんだろう。  わからないまま、地面にへたり込んでいる自分を見下ろす。手ぶらの両手が、なんだか物足りない。 「おはようございます、深夜」 「おは、よう?」  辺りはどっぷりと暗い。夜だ。なら、こんばんは、では? でも自分は今まで寝てたから、おはよう、が挨拶としては正しいのか。  どうでもいいことを気にして思考が空転する。白い布で顔を隠した黒衣の誰かが話しかけてくる。 「あなたは零時の遺灰を腹に収めました」  気になることを言われて、深夜は黒衣に意識を集中させた。言葉は、よく聞き取れなかった箇所があったが。  なんとはなしに腹を撫でる。不快な感覚はなかった。むしろ懐かしく、慕わしい。 「だから、あなたと零時はいつもいっしょです」  嬉しいことを言われた気がするので頷く。黒衣が言葉を重ねてくる。 「だから、零時のことを思い出す必要はない」  それはいやだ。  顔を顰めると、別の黒衣が話しかけてくる。 「あなたは零時を飲んだ」  頷く。それは、嫌じゃない。 「だから、あなたと零時はいつもいっしょだ」  頷く。それは、嬉しい。 「だから、あなたは零時のことをいつも感じてる」  頷く。それは、言われるまでもない。 「だから、あなたは零時のことをいつも覚えてる」  頷く。それは、当然のことだ。 「だから、わざわざ零時のことを考えたり、思い出す必要はない」  それは…… 「零時は、あなたに笑っていてほしいと考えている」  別の黒衣に耳打ちされ、戸惑う。  考えたことはなかった。でも、それは当然のことに思える。 「零時は、あなたのことが大好きだ」 「零時は、あなたに幸せになっていてほしいと思っている」 「だから零時は、あなたが苦しんでいると、悲しい」  それは、そうだ。当たり前のことだ。  自分がとんでもない不忠をしでかしていた気がして、青ざめる。  黒衣がささやく。 「あなたは、零時のことを考えると、苦しい」  それは、否定できなかった。 「だから零時は、あなたが零時のことを思い出すと、悲しい」  それは、いやだ。悲しんでほしくない。 「だからあなたは、零時のことを思い出さない」  それは。 「零時のことを考えない」  でも。 「なぜなら、零時がそれを望んでいるから」  ……零時が、そう望むなら。  ついに頷いた深夜に、黒衣が手を差し延べた。 「『初めまして』、深夜。私たちは神連。人に仇なす神に抗う者。つまり、あなたと『志を同じくする者』です。  共に『人を不幸にする憑神』をたおしましょう」  拒む理由が見つからず、深夜はその手を取り、頷いた。  自分は、人を不幸にする憑神を、倒すと誓った。何故? どうしてだったろう。思い出せない。 (零時のことを思い出さない。零時がそう望んでいるから)  耳元で囁かれた気がして、深夜は立ち上がった。ぼんやりと、夢の中にいるような心地がする。  黒衣たちについて行く途中。角の生えた巨漢が、こちらを見てつぶやいた。 「すまんな」  その表情が、苦く、辛そうだったので。  なんだか申し訳ないなと、深夜は思った。