100%昔?話「よこしまなひと」
昔々、かどうかは知りませんが、今でも此処でもないどこかの話。
神様、だか魔物だかわからない、少なくとも人ではない何かが、人のフリをして歩いておりました。
微笑みを浮かべた顔はただの模様。本当は丸餅のような体を引っ張って手足のようにして、ひょろりとした男のような、つるりとした肌の女のような、そんな姿になった何かが出会ったのは、よこしまな目の人間でした。
「そこのあなた。服を着ないとダメですよ」
素っ裸で(何せ元は一抱えもある丸餅のような姿ですから)歩いていた何かに、よこしまな人は親切ぶって服を貸してあげました。
「ああ、あなた、ほくろも、シミも、傷もなくて、なんてキレイな肌なんでしょう」
何かに服を着せてあげながら、よこしまな人は息を荒げます。隠れてるほうが興奮するのです。
「ああ、あなた、股に何もなくて、つるりとして、ああ、なんて、いやらしいんでしょう」
何かの股を揉みしだきながら、よこしまな人は何かに吸いつきます。見えないほうが興奮するのです。
「ああ、あなた、なんて、こんな、いやらしい、いやらしい、この目が、この目が」
そこまでされても、何かは顔色ひとつ変えず微笑んだままです。だってただの模様ですからね。
そんな見てくれだけは聖人のような何かに、よこしまな人は泣き始めました。清らなものほど興奮するのです。
「わかってる、わかってるんですよ、あなたはなにも悪くない。私の目が、この目がいけないんです。いやらしい、いやしい、この目が、この目が」
ナイフを取り出したよこしまな人に、何かはやっと首を傾げました。
「そうなのですか?」
「そうなんです、そうなんです、この目が、この手が、いけないんです。こんな目、こんな手、なければいいのに」
「そうですか。かわいそうに」
そう言って、何かはよこしまな目をむしり、よこしまな手を潰してあげました。
そんなことをしても、何かは顔色ひとつ変えません。だってただの模様ですからね。
よこしまな人はお礼を言います。
「ありがとうございます、ありがとうございます、私なんぞの血で、あなたを汚させてくれて」
「構いませんよ。洗えばいいだけですから」
「ああ、そんな、無体な、無体な、もっといじめてください」
何かは親切なので、お望み通りよこしまな人をむしって、こねて、すすって、食べてあげました。
「ああ、ありがとうございます、ありがとうございます。私なんぞが、あなた様の命になれるなんて、清らかな命を、これ以上汚さずに済むなんて、ああ、なんて、しあわせ……」
よこしまな人を残らず食べて、血も一滴も残さず吸い取って、元通りの清らかな白い肌に戻ると、何かは血で汚れた服も食べて、また素っ裸、のように見える体で、大地を歩いていきました。
ここまでしても、何かは顔色ひとつ変えません。だって、ええ、その微笑みは、ただの模様なのですから。
やがて、人ではない何かがやってくると見抜いた親切な人がやってきて、何かに服を着せてやって、尋ねました。
「こんにちは、人ではない方。獣ではない方。神か妖かはわからねど、同じ大地を歩く方。
あなたは、人が好きですか?」
親切な人の問いに、何かは微笑んで頷きました。
「ええ。人はとてもかわいいです」