祈りの残骸
ときどき、不安に思う。私は、この世界を愛しているんだろうか。
生まれた時からずっと、「お前は世界を救うんだ」と言われ続けて、自分でもそうしなきゃと思い続けて来たけど、けど私は、自分の身を犠牲にしてまで救いたいほどに、この世界を愛せたんだろうか。
ずっと育ててくれた、お父さまとおばあさま。村のみんな。
大切なことをたくさん教えてくれた、ダイクおじさん。
子ども扱いされたときの、ジーニアスのしかめっ面。
怪我を治してくれる、リフィル先生の優しい手のひら。
怒りながら心配してくれる、しいなの大きな声。
いつも優しい、クラトスさんの目。それから、
『一緒に遊ばないか?』
ロイド。
彼の笑顔を思い出す。
うん、愛してる。
だから大丈夫。譬えみんなのことを忘れてしまっても、私は
「コレット!!」
背中から聴こえてきた声に、あぁやはり、とコレットは悲しげに微笑んだ。
いつもそうだった。私がひとりで無理をしていると、彼はいつも、当たり前の顔をして、私を助けてくれたのだ。
この旅に出たときも、失われていく感覚に怯えていたときも、そして今も。
助けるのが当たり前だと言わんばかりに。私の覚悟なんてまるきり無視して。それがどれほど嬉しかったことか。
あふれる気持ちは言葉にならない。涙として流れることも許されない。それでもせめて、少しは彼に届いてほしいと、精一杯に、コレットは微笑んだ。
いつもの、愛想笑い。彼を騙せるほどに上手く笑えたかどうかが、彼女が最後に心配したことだった。
* * *
目蓋が閉じられて、ゆっくりと開く。彼女の深い空色の瞳が、ゆっくり色を変えていく。
それは夜明けの色。嵐に怯える夜が雷に染まる、淡い赤紫。
双眸を翼と同じ色に変えて、コレットは、何も映さない瞳で、ロイドを睥睨した。