斜陽

 自分が辛いとき、辛いのはみんな同じだと言われて慰められる人間が、どれだけいるだろう。  夜道を歩きながら、そんなことを考える。11月の空気は肌寒く、夜空に輝く月は冷たい。  今し方別れた結実は凍えていないだろうか。そんなことを考える。  支えに、なれただろうか。泣き止むまでそばにいることはできたけど、涙を止める言葉は思いつかなかった。 『どうして、私だけこんな目に遭うの?』  返した言葉は、「結実だけじゃない」。 『辛いのが私だけじゃないからって、それが何よ!?』  失言だった。辛くて泣いているとき、「辛いのはお前だけじゃない」と言われれば、それは腹が立つだろう。求めているのは真理ではなく、慰めや、優しい言葉だ。  誰かが自分より辛い目にあってても、自分の辛さが減るわけじゃない。不幸は人と比べるものじゃない。辛いのが自分だけじゃないからといって、我慢できるものじゃない。わかっている。 ──…それでも、言わずにはいられなかった。辛いのは君だけじゃない。  11月17日。  菜々子はまだ目を覚まさない。