焦げた影絵

 そんなことを、考えてたわけじゃない。 「どいつもこいつも、勝手なことばっかり」  見慣れた街の風景。目に馴染んだ家の景色。自分の部屋。目の前にある、自分の姿。 「ジュネスも商店街もほんっとウザい。  潰れるなら潰れなさいよ。あんたらが商売下手なのが悪いんでしょ」  自分が言う。見たことない表情で、聞いたことない声で、目の前の自分が、耳を塞いでいた言葉を口にする。 「あーもう、バイトめんどい。  花ちゃんは言い寄ってくるし。店長の息子だから仲良くしてただけなのに」  弟みたいに思っていた。本当だ。 「勘違いして、ばっかみたい」  そんな打算で、気にかけてたわけじゃ。 「違う」  悲鳴がこぼれる。それとも嗚咽だったのか。ほとばしる拒絶が、目の前の自分に放たれる。 「あんたなんか私じゃない!!」  涙に滲む視界で、にやりと影は嗤った。   *  *  *  4月14日。テレビの中で霧は晴れた。  そして世界には影だけが残された。