感動の再会
それは紛れもなく感動の再会だった。そのはずだった。
少なくとも、男にとっては。
「メラゾーマ!!」
「バギクロス!!」
大火球が地面を焦がし、竜巻が大気をなぎ払う。
如何なる強敵といえど無傷では済まない必殺の呪文、そのはずだった。
「嘘だろ……」
地煙から現れた魔物は無傷だった。絶望、そうとしか形容できない声が漏れる。
男は辺りを見渡した。救いなど、あるはずもない。仲間たちはそのほとんどが地面に倒れ伏し、残った仲間も戦意を失って座り込んでいる。
どうしてこんなことに。男は歯を食いしばった。
何でもない、ありふれた魔物退治のはずだった。一匹のはぐれ魔物を、倒すなり懐柔するなりすればいいだけのこと。今まで仲間たちと共に幾多の困難を乗り越えてきた男ならば、易々と片付けれる依頼のはずだった。
だが。魔物の爪と牙に仲間たちは次々に倒され、渾身の技も魔法も魔物の毛皮一枚傷つけることは叶わなかった。不死身。そんな言葉が浮かんできて、笑う。絶望の笑みだった。
近づいてくる魔物を、なすすべなく見やる。
冷たく湿った感触が、男の頬に当たった。座り込んでいた仲間の一人が、袋から薬草を取り出して、放り投げる。
「おい」
男は声をかけた。何を言おうとしたのか。
何か言う前に、仲間は袋から道具を取り出した。あきらめの笑顔。
「もう無駄なんですよ」
そう言いながら、仲間は次々に道具を放り投げた。回復魔法で不要になった薬草の束。着古された装備品。使わなくなった鍵。地図。思い出の数々。
「もう無駄なんです。俺たちは負けたんです。
でも、何か……何か、最後にできるかもしれないじゃないですか」
仲間は泣いている。男は止められない。魔物が近づいてくる。
仲間が、何か、ひものような物を投げた。近くに落ちたそれを拾う。
思い出の品。懐かしい、幼馴染みのリボン。
「ビアンカ」
名を呼べば、もう一度会いたい。そんな想いがこみ上げてきた。
また会いたい。もう会えない。涙がこぼれ、リボンに落ちる。
その涙が、なめ取られた。
虚を突かれ、男は呆然と、目の前を見やった。
不死の魔物が、男の頬をなめている。男の頬をなめ、リボンを懐かしそうに嗅ぎ、そして、慕わしそうに、男に鼻をぶつけた。
「…………プックル?」
自然と浮かんできた名を呼ぶと、嬉しそうに魔物が鳴き声を上げた。その懐かしい声。
「プックル、プックルじゃないか!
どうしたんだ、こんなところで!」
男の嬉しげな声に、仲間が疑問の声を上げた。
男は満面の笑顔でふり向いた。
「プックルだよ! 前に話しただろう? 子どもの頃いっしょにいた……」
ふと気づけば、倒れていたはずの仲間までも、半眼でこちらをにらみ、肩を震わせていた。
その物々しい様子に、首をかしげる。
「どうしたんだ? みんな」
「「「はよ気づけえええええ!!!」」」
力尽きていたはずの仲間たちの渾身の拳、蹴り、その他諸々が、男を地平線の彼方に吹き飛ばした。