青を射抜く赤

 一体何だったんだろう、あの女は。  目の前で自分を叱り飛ばす上官の説教を聞き流しつつ──叱ってくれるだけまだ自分に好意的なのはわかっているのだが、だからといっていつまでも興味のない説教を聞いていられるほど人間できていない──ノウェは考え込んでいた。  昼間、反逆者を捕らえよという任務で向かった村でたまたま助けた女は、どうして自分を助けたのかと聞いてきた。変なことを聞く女だとそのときは気にも止めなかったが、後で理由はがわかった。彼女が、自分が追っていた反逆者だったのだ。  変な女だった。語彙の少ない人間の言葉では上手く言い表せないが、変な女だったと思う。  首の高さで切り揃えられた色の薄い金色の髪に、切れ長の真っ赤な瞳。赤は帝国の色で不吉だと教わったことを思い出す。  聞いたときは自分の生まれる前の、それも人間の(と言うと幼馴染みには人間だけでなくエルフを初めとする亜人にも絶大な被害が云々と言われたが、当時の自分にとっては同じだった)歴史による認識などよくわからなかったが、今は少し肯くものを感じる。  あの女の赤い目を見たとき、恐れを感じた。初めて剣を握ったときのような、畏怖。あれは何だったのだろう。  封印騎士団に逆らう反逆者の頭目、その威厳なのか。いやそれならば、あの女は、何故。 「ノウェ! 聞いているのか!! 何故あの女を逃した!」  上官が机を叩く。力任せの激しい音に我に返り、「すみません」と、とりあえず謝った。 「封印騎士団に逆らう大罪人が、まさか子どもを庇うとは思わなかったもので」